第8話「神器を持てる者は」

 そう、そこにいたのは前の旅で出会った女性。

 少し後でうちに依頼してきて、一緒にお母さんを探して。

 そしてなぜか、俺を好きになってくれた女性……。


 楠木友里くすのきゆりさんだった。


「……あの、キクコさんがいるという事はもしかして」

「んだ、あたすの世界だべさ」

 キクコちゃんが答えた。

「やっぱり……」

 何か得心したようだった。


「あの、友里さんはどうしてってか、どうやってここに?」

 俺も聞いてみると、

「分かりません。一週間前、蘇我さんの御骨納めたお寺に行こうとしたら、急に辺りが真っ暗になって……気がついたらここにいたんです」

 そうだったのか、ってそんな事もあるのか?


「友里さんも誰かに呼ばれたのかもだべ。けんどこの術知ってるのはあたすとお師匠様、陛下だけだべ?」

 キクコちゃんが首を傾げた。


「あ、そういやボルス様から手紙預かってた。ここにいる人と会えてから読んでくれって」

 ユウト君がそう言って懐から手紙を取り出し、皆に聞こえるように読み始めた。




 キクコ、隼人殿を早く呼ぼうと一度儂に黙って召喚術をしていたな。

 それは失敗したと思っていたようだが、誰かが呼ばれたのは見えた。

 すぐに迎えに行ったのだが、体調を崩したようだったのでそのまま住職殿お願いし、皆が来るまで誰にも話さないように伝えた。

 察するにキクコの話にあった方だと思うが、この方はキクコに劣らぬ魔法力を持っていて、修行すれば回復系の魔法使いとなるだろうと見た。


 最後に召喚された方、手紙で申し訳ございませんが我が弟子の不始末をお詫びいたします。



 

「……キクコちゃん」

「ごめんなさいだべ」

 キクコちゃんが深々と頭を下げた。

「あ、いえいいですよ。会えるなら会いたかったでしょうから」

 というか、俺もこんな所でまた友里さんと会えるとは思わなかった。


「えっと、おれはキクコの又従兄のユウト。いきなり呼ばれて大変だったね」

 ユウト君が友里さんに声をかけた。

「ええ。あ、私は楠木友里です。友里って呼んでください」

「友里さんか。あ、もしかしてキクコが話してた美人介護士さん?」

「美人じゃないですけど介護士ですよ」

 友里さんが手を振って言う。

「いや綺麗だってば」


「お知り合いのようで安心しました。ボルス様に報告しておきますよ」

 ご住職が声をかけてきた。

「ありがとうございます。あ、それはそうと神器ですが」

「ああ、もしかすると形代の宝物殿にあるのかもですな。ではご案内します」


 その後俺達はご住職に案内されて宝物殿に向かった。

 友里さんも一緒に。


「殆ど日本と同じですね。けど皆さん魔法使うからもしかしてと」

「なるほど。けど精神は追いつかなかったから」

「それもありますけど、ちょっと忙しかったからかな。あ、もう大丈夫ですよ」


「むうう、このたくらんけがあ」

「それたぶん北部の人しか分からんぞ」

 キクコちゃんとユウト君が後ろでなんか話していた。



 そうしているうちに宝物殿の前に着いた。

 なんというかほんと日本のどこかのお寺にありそうな造りだな。


「ここは関係者以外は年に一度しか入れてはいけない決まりなのですが、そうは言ってられませんからな」

 ご住職はそう言って扉を開けた。


「うわ……」

 宝物殿の中央には祭壇があり、両手に勾玉を持った男性の像があった。

 その足元にはひと際大きく輝く勾玉が。


「お、おお。あのような勾玉は今までありませんでした。ですからあれが」

「神器の勾玉……」

 なんというか、この世のものとは思えない美しさと言えばいいのかだな。

 

「ひゃあ、あたすも初めて見ただ」

「なんというか、言葉で言い表せないですね」

 キクコちゃんと友里さんも感激しているようだった。


「神器の勾玉ってさ、言い伝えでは皇族以外だと勇者様しか持てないらしいんだ。だから隼人さんが持っててよ」

 ユウト君が勾玉を指して言った。


「うん」

 俺は手を合わせた後、勾玉を持とうとしたら……。

「え?」

 なぜか勾玉が浮き上がって俺の横をすり抜け、友里さんの手に収まった。


「え? あの、なんで?」

 友里さんがおっかなびっくりで勾玉を抱えていた。


「あれ、皇族か勇者様しか持てねえんじゃねえだべか?」

「知らねえよ。あ、もしかして友里さんって陛下の親戚?」

「うーん、物凄く遠い所で繋がってるかもだけど」

 俺達が話していると、


「その話でしたら拙僧も知ってますが、先に言われた方々以外ですと、聖女様が持てるそうですよ」

 ご住職がそんな事を言った。


「え……?」

 友里さんは訳が分からないようだった。って俺もだけど。


「うわ、聖女様って実際にいたんだ!」

 ユウト君が目を輝かせて言い、

「けんど、友里さんが聖女様だとしたら……」

 キクコちゃんは何故か俯いていた。


「えっとあの……聖女かどうかは置いといて、なぜここにこれがあったんですか?」

「あ、そうですよね。なんでだ?」


” それについては僕が話すよ ”


「え?」

 どこからか声が聞こえてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る