青を経たなら必ず唸るだろう傑作

冒頭の舞台装置の使い方がまず上手です。日常に転がっている生活の一端を感じ取ることができ、そこから人物の対面のきっかけをつくっていく、という点でとても参考になりました。

中盤から後半にかけては、「私」の「先輩」に対する想いが移ろっていく様子が手に取るように分かっていきます。心情の描写は分かりやすく、それに伴う心情の描写も上手なため、「私」の心を見つめる第三者としての読者の立ち位置が安定していきます。

お互いのことを描いた絵は、その意味の全てを語るわけではなく、程よい空白として読後も残るため、そこについての考察も捗ります。構造分析のしがいもある舞台装置の使い方だと勉強になりました。

そして、最後の「アクアグレイ」が持つ意味と曖昧な青い時間が醸す「私」の心情。間違いなくここで唸るはずです。

文学作品として、ライト文芸として、多くの点において秀でている作品であると感じました。

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