第8話

 花と思いを、たっぷり詰め込んだジジイは、出棺する。僕たちも、ジジイを追って、火葬場へ向かう。


 火葬場で、坊さんがお経をあげると、いよいよだった。ジジイの幸せそうな顔も、見納めだった。


 僕の手元の車椅子から、オバンはすくっと立ち上がる。そのままフラフラと、棺の方まで歩く。棺を撫でながら、顔を見つめながら、オバンは枯れない涙を、こぼし続ける。


「お父さん、置いていかないでよ、置いていかないでよ」


 大声で、しゃくりを上げて、最愛の人を失った悲しみが響いていた。


「ばあちゃん」


 数分だったと思う。否、数十秒だったかもしれない。しかし、とてつもなく長いような時間を経て、僕は、オバンの肩に手を置いた。


「うん。ごめんね、ありがとう」


 と、オバン。車椅子に、着座する。


 今から、ジジイは空へかえる。




 二、三時間しただろうか。僕は、火葬場の、この待ち時間が嫌いだった。


 死を、じわじわと味わう感触に、どうも慣れずにいた。


 僕は、煙草を燻らせる。ふと空を見やると、煙突からも、煙が上がって、消えていった。僕の煙も空へ上り、消えていく。


 そうしているうちに、火葬が終了するアナウンスが入る。僕は、煙草の火を消した。




 骨になっても、ジジイは立派な人だった。大病も、骨折もないジジイは、太く、しっかりした骨を持っていた。


 おじさんとオバンが、骨を拾う。箸で持ち上げても、骨は折れない。


 そういうところが、ジジイらしいな。


 僕も骨を拾う。硬い感触が、手に伝わる。ジジイは、決して大柄な方ではなかったが、存在感があった。


 そのジジイが、太いといえどこんな形になるなんて。


 僕は、少しだけ、胸が締め付けられた。


 骨を納め終えると、オバンは、僕の方へ向き直った。


「車椅子、押してくれてありがとうね」


「いいよ、慣れているからさ」


 オバンは、目頭をこする。


「今日で、泣くのは最後にするから」


 そう言って、下手くそに笑った。


「無理はしないでね」


 と、僕もつられて、下手くそに笑った。



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