第9話

 オバンきっての願いで、近しい親族全員で、仕出し弁当を、オバンの家で食べることになった。


 僕は、昨日のビールを、音を立てて開けた。


「それ、じいちゃんが一番好きだったビールだよ」


 と、横からにやにやと、愛子。


「えっ、まじ」


 吹き出しそうになる。愛子は、それをよそに、オバンに話しかける。


「ばあちゃん、煙草吸ってくるね」


「ああ、それね、室内でもいいよ。換気扇の下なら。もう、おじいちゃんいないしね」


 と、少し寂しそうにオバンは言う。


 じゃあ、と、僕も、換気扇の下で、煙草に火を点けた。


 皆、居間にいるため、換気扇のあるリビングには、煙草を吸う、僕と愛子だけだ。


 ジジイが座っていた、椅子を見る。


「煙草は身体に悪いから、やめろ」


 そんなことを、言われたっけな。


 頑固なジジイのことは、正直すべてが好きとはまだ、言い難い。


 でも、ジジイはジジイなりに、僕のことを考えてくれていた。


 それだけが、ただただ嬉しかった。


 たまには、ジジイのいうことも聞いておかないとな。


 僕は、吸いさしの煙草の火を、消した。

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弔い 夢崎 醒 @sameru_yume

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