第6話

 体調不良も相まってか、通夜が終わると、オバンはフラフラと、倒れこみそうだった。僕はそれを介抱しながら、オバンを家へと連れていく。


 今、オバンに何かあったら、嫌だ。


 葬儀に出られなかったら、オバンはもちろん、僕も、一生の後悔をする。


 そう、頭をよぎった。


 僕は、舞を家に帰すと、オバンの家に一泊することにした。母さんも、一緒に。


 クーラーのある居間に、母さんと二人、並んで布団を敷く。オバンを、自室のベッドへ寝かせると、戻った僕に、母さんがビールを差し出した。


「お疲れさん」


「うん。母さんもね」


 カシュッ。プルタブを開ける。


「ばあちゃん、相当参ってるね」


「うん」


 僕は、苦いビールを、喉の奥にしまった。


 母さんの、目の下の隈が、僕の目に飛び込んでくる。連日の疲れからだろう。


「雅と二人で、こうやって寝るの、子供の時以来だね」


「そうだね」


 母さんは、ごくごくと音を立てて、ビールを流し込む。


「ばあちゃん、毎日泣いていてね。昨日は、じいちゃんの遺体に縋り付いて、大声で泣いていたよ」


 プハーッと、息を吐いて、母さん。


「なんだかんだ言って、あんなに二人、喧嘩していたけど、ばあちゃんは、じいちゃんのこと好きだったんだよ。大切に、思っていたんだよね。だからこその、喧嘩というか」


 続ける。


「そりゃあ、じいちゃんは、酒で失敗する人だったし、父親という観点でも、しょうがない人だったよ。でも、いざ死んだとなると、悲しいよね」


 少し、涙ぐんでいた。


「あんなじいちゃんだったけど、いい人だったよ」


 と、僕。


 しんと、静まり返る家。


 ジジイが、リビングから、「おーい、雅」と呼びかけることがあるかもしれない、僕はまだそう思ってしまう。


 否、もう、その声は聞くことができないのだが。




 翌日のオバンは、幾分か回復した様子だった。蒼白だった顔面は、顔色良く、少し活気を取り戻したように見えて、僕は心底ホッとした。


 僕たちは、葬儀の支度をする。舞も、自分の車で駆けつけてくれた。


 今日で、ジジイの顔を見るのも最期か。


 リビングから聞こえそうな声も思うと、少し切なくなった。



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