第2話
理沙を含めたいつものメンバーで、いつもの空き教室で昼食をとる。みんながコンビニや売店などで買ってきた弁当やパンを食べる中、私は母親から作ってもらった弁当を食べる。
こんな時、話題は決まって恋愛の話だった。誰々が優しいとか、面白いとか、かっこいいとか。正直言って興味はない。でもみんな面白そうに話すから興味がないなりにも真剣に聞いた。置いていかれないように、はみ出さないように。
「愛生は好きな人とかいないの?」
「え?」
「いっつも聞いているだけで愛生の恋愛事情ってあんまり聞いたことないよね」
「確かに! 愛生はどんな子がタイプなの?」
「ええ、私のタイプか~」
そんな感情を抱いたことがないからタイプなんてわからない。それでも何か腑に落ちる答えを言わないといけない。
「なんか私にないものを持ってる人かな」
「なにそれ?」
「意外とロマンチック~」
なんて茶化される。なんとか満足のいく回答が出せたみたいでほっとする。別に本気でそう思ってるわけじゃない。ネットか何かでそんな記事を読んだ気がする。テレビかも。
でも自分にないものなんてたくさんあるわけで、何かを持っている人の方が少ないのかもしれない。
明らかにこのグループから私は浮いている。顔も性格も、何一つこのメンバーには合っていないのだが、どういうわけかこのメンバーで固まることが多かった。
「あ、そういえば河上って知ってる?」
「誰それ、有名な人?」
そんな私の問いに、彼女は首を振って呆れ顔を作った。
「違うよ、同じクラスにいるじゃん」
そう言われても彼の名前と顔が出てこない。
そんな私の顔を見て理沙はツッコむ。
「もう! 愛生はクラスのことに興味なさすぎ」
「ごめんって」
それは確かにそうだ。
「で、その子がどうしたの?」
「いや別に大したことじゃないんだけど、たまたま昨日コンビニで会ったの。夜の七時くらい? それでうち財布忘れちゃって、レジ前で焦ってたら一緒に払ってくれたの、まじ優しくない?」
「なにそれ、かっこいい」
「惚れた、とか?」
「いやうち拓斗くん一択だから」
拓斗とは私たちの学校の一つ上の先輩の人だった。理沙は一目惚れで好きらしい。
「で、話しはまだあるんだけど」
妙に声のトーンを落とした理沙に違和感を覚えた。こういう時は決まって重たい話が始まると相場が決まっていて、理沙の話も例外ではなかった。
「でさ、なんか河上腕にすごい痣あったの」
「痣?」
思わず聞き返す。
「そう、ひどい色の痣。河上って大人しいから喧嘩とかはしなそうじゃん? だから家庭内暴力とか受けてんのかなって」
「こっわ! でも確かに根暗だしありそうかも」
私の知らない人物の話で盛り上がり結局置いていかれてしまう。腕に痣か。ふとさっきいじめを受けていた彼のことを思い出した。
きっと彼の身体にもいくつも痣ができているんだろう。可哀想だな、なんて思う資格は私にはない。あの光景を忘れるように、記憶は卵焼きと一緒に呑み込んだ。
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