第6話 その時
”その時”は突然訪れた。
遊園地デートから約一か月経ったころ。
だんだんと、口数が減ってきているな、歩ける距離が短くなってきたなとは感じていた。けれど、まだ冗談を交えながら穏やかに会話はできたし、食事もきちんととることができていた。
心の準備なんてするものではないと思っていたし、頭の片隅にあった余命宣告まではまだまだ時間はあったから、「光が、、、!」という光のお母さんからの電話を受けたときは全身に鳥肌が立ち駆け出す足がもつれた。そのまま病室だけをまっすぐに目指した。
病室に着くと、もうすでに赤い目の光の両親と目が合った。
その瞬間に、もう”その時”がすぐそこなのだと、すべてを悟った。
「柊、、、。」
何を感じたのか、急に光が僕の名を呼んだ。
「もう生きたいとは思わない。でも、、、わたしはあなたとの時間に”希望”をもった。無のまま死なずに済んだ。わたしの生は、希望と共に終わる。あなたと出会って、わたしの「終わり」には希望が伴った。だから、私の名前はひかりなのかもしれない。この世にその名のごとくひかりとして生まれて、そして希望の光と共に去る。人って、名前にその人生の意味が隠されているのかもしれないね。
本当に、ありがとう。」
そうして静かに目を閉じた。一粒、おそらくこの世界で一番美しいのではないかと思うほどのきれいな涙を流しながら。
僕はこの世の涙をすべて集めて目から溢れさせたというほど涙が止まらなかった。
”その時”以降のこと、それからをどうやり過ごしたかわからない。
ふと、彼女と出会った日のことを思い出し、その場所にふらふらとたどり着いた。
最後に遊園地で言った言葉を思い出した。
”僕が生き続ける限り君の存在は消えない。”
いいや違う。生きることへの希望の光が後世に継がれることで、あなたという人は誰かの心の中で生き続ける。
終わり、という言葉にはどこかセンチメンタルな、ポジティブとはかけ離れた、言いようのない哀愁の気持ちに駆られることがあるかもしれない。
でも僕だけは知っている、そこに「希望」というあたたかな光を付け加えた人がいたことを。
これからもきっと、ふいに思い出す。
ただ、振り返ってしまえばもう終わってしまうような、そんな儚さをもった人。
一度すれ違っただけで、その存在をとても知らしめるような。
この記憶があるだけで、僕はいつからでもまた歩き出せる。
光と終わるとき @yukiyo3
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