第2話 分かり合いは不可能
対戦車砲撃った直後、弾頭は後方へ吹っ飛び女神にはものすごい勢いで水がかかった。
布は透けてほぼ全裸だ。だが恥じらう様子もない。
「あれ?前後間違えた?」
「何これ塩っぱい……じゃない!会ってすぐの人に撃つなんてどんな考えを!」
「手違いで殺された人にそれを言う?」
正直もうどうでも良くなっていた。異世界でどうとか関係ない。1発……いやもっとだ。
空になった筒を捨て今度は拳銃を拾った。距離は3メートル、1発は当たる。
「そんな攻撃は効きませんよ?」
「ずぶ濡れで言われても説得力がね……」
躊躇わず引き金を引くが……弾が出ない。何かロックが掛かってる。安全装置か?
「慣れない武器は使うものじゃありません」
「余計なお世話だ」
完全に遊ばれてる。だがこの銃後方にはレバーが二つついてる。コレを降ろすか引くかすれば……うん、コレ無理!
「こうゆうのはどう?」
撃ち方が分からないので手榴弾のピンを抜いてなげた。この距離なら外さない!
だけど……大切なことを忘れてるような……
「命知らずですね」
女神がそう言った数秒後に起爆して理解した。爆弾との距離が近すぎたのだ。爆音と共に煙に包まれ全身ズダズダに……
「あれ?無傷?」
「ですが死んだまま死ぬことはできませんよ」
「え?嘘?」
とりあえず銃を拾って自分に撃ってみる。
「本当だ。弾がすり抜けてる」
頭といった急所でもそれは変わらない。物は持てるのに弾はすり抜ける便利な状況。自撮りの感覚で撃っても変わらず。
「イェーイ!これが撃たれる時の見え方か……もしかしてヘッドショット回数の世界記録更新じゃない!?」
今ならロシアンルーレットも怖くない。賭ければ全勝だ。
「あなた……狂ってますよ」
「いきなり殺されて狂わないやつなんている?」
だが死んでいて攻撃がすり抜けた私と違いあの女神にはそもそも効かないようだ。女神だからなのか魔法の世界だからなのか……
「無論我々がそこらの武器でやられるはずがありません。あちらの世界でも魔法で無力化する人は多いですけど」
「剣や槍は使い方知らないし銃は魔法で無効って私詰んでない?」
「そこは頑張ってください」
話が一周してしまった。
「だからそっちの過失なんだから何か補填してよ」
「中々折れない人ですね……なら私に怪我を負わせたら特製のスキルを授けましょう」
「待ってました!」
今度は大きめの銃を拾った。この重さならそこそこ威力があるだろう。
「これでもくらえ!」
でも現実は非情。1発しか弾は出なかった。
「この大きさでそれはギャグでしょ……もしかして単発機関銃?」
「次はこちらの番です」
今までひたすら攻撃を受けるだけだった女神がついに攻撃を始める。
「え?そっちも?」
「誰も攻撃しないとは言ってません」
「でも私は死んでるから死なないんでしょ?」
「なので魂の削除を実行します」
死刑宣告。どんな攻撃か予想もできない。すると女神の手元が光ったかと思うと身の丈ほどある鎌を取り出した。
「多分本物の死神の鎌。これであなたを刈り取ります」
「雑草みたいに言うな!」
嫌な予感だけはする。この碌に言うことを聞かない銃は捨てよう。無い方がマシだ。
別の銃を拾い引き金を引き続く。今度は弾が沢山でる当たりのようだ。
「舐められたものです」
弾丸は女神を通り抜けた。まるでそこに実体がないかのように。
「すり抜け?」
「銃弾など魔法の前には無力」
チートだ。どうやってあの通り抜けを攻略する?
💬ありったけの銃弾を!
💬重い一撃を!
一瞬悩んだ。マシンガンの方が持ちやすそうではあるが……
「でかくて重い一撃を決める!」
手にしたのは身長を超える銃。見るからに古そうだが拳銃とは比べ物にならない威力がある……と信じたい。
「遊びはここまで。心安らかに……死ね!」
鎌を構えた女神。当然それに向かって銃を構えようとした。でも違和感がある。さっき女神が立っていた場所から点々と水跡が私の続いていたのだ。
「とりあえず触れてやる!」
痴漢のような言葉を吐きながら1.5メートル以上ある銃をバットのようにフルスイング。案の定女神の身体はすり抜ける。だけど何も無いところで銃は引っかかる。
「そこか!」
少し手前に銃を引きこみ引き金を撃つ。見た目に反して銃の反動は軽い。軽いと言っても重たく長いから取り回しは最悪だけど。
「ハッタリを見破るとは」
銃弾が見えない壁に当たったのか一瞬止まったかに見えたがそれを貫きまた進んだ。そして女神は姿を現す。先ほどまで見えていたのは消えた。
「姿を隠しても水跡が残ってたらね」
「跡?」
女神は足元を見る。足裏は濡れており水跡が途中まで僅かに残っていた。
「あの無反動砲の逆撃ちにこんな意味が……」
「そりゃ偶然。でも天は貴女を見放したみたいだね」
「勝った気でいるのが随分と早いこと」
私は即座に銃を向け女神に押し付けた。
「この距離なら壁は張れないんじゃない?」
「女神である私に普通の武器が通じないんですよ」
「嘘!じゃあ私の戦いは?」
「無意味です」
あんまりだ。最初から負けイベントだったと言うのか?いや、まだだ。仮に負けバトルだとしても仕様の不備や想定外なんてザラにある。現実でも超大国が小国に負けた例なんて幾つある?
「じゃあ試しに1発」
余裕をぶちかます女神の足に撃ってみた。左足は吹き飛び辺りは鮮血の溜まりだ。
「え?ゑ????」
「高貴な血も赤いんだね」
「あ、ありえない。なんで?」
すぐに足は再生し血溜まりも消えたがとんでもなく動揺している。
「一体何を!」
「いや……何も……」
試しに撃ったら効いただけだ。聞かれても何も知らない。
「まあこんなのが直撃すれば吹っ飛ぶのは普通じゃ?」
「私は女神ですよ?神殺しのスキルでも無ければ通じないはず!」
「やはり自称だったか」
「そ、そんな……」
女神を名乗る者はその場でヘナヘナと萎れるように座り込んだ。流石転生者を間違えるだけのことはある。
「どんな事情かは知らないけど約束通り一撃を与えたから何か頂戴!」
「……では1D100で」
「?」
目の前に数字が書かれたボールが現れる。なんだこれは?
「百面サイコロ。それを振って渡すスキルを決めましょう」
「少しは誠意とか無いのか!」
「可哀想なことをしたなとは思ってますが」
気がつくと私は女神を羽交締めしていた。
「同情するならスキルをくれ!」
「いきなり技を掛けてきた人の台詞ですかそれ?」
「サイコロ決めはいくら何でも酷すぎでしょ!」
しかし力の差は歴然。一瞬で解かれてしまった。
「あなたのような狂人……関わるだけ無駄ですね」
「誰が狂人にした!」
「あなたの行動には心底うんざりさせられる」
「ゑ?」
床に大穴が突如開いた。
「嘘!」
「あなたのような人間は不要です……」
途中からはもう何を言っているのか聞こえなかった。身体は自由落下をはじめどんどん加速していく。こうなるとできることはただ一つだけ。
「次あったらぶん殴ってやる!!」
力の限り叫んだ後、私は考えるのをやめた。
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