人違いで転生〜武器と亡霊に身を任せつつ生き延びる〜

@suo_nagato

第1話 はじまりは勘違いから

起きるとやたと無機物な場所にいた。床も天井も殺風景。壁が動く有名なミュージックビデオのような光景だ。日本の地下街を見たらこんな感じになるのだろうか?


「寝相が悪すぎたかな?」

「私が呼びました」

「呼んだ?」

「色々とやってほしいことがあるのですよ」


声の主はそういうとしばらく間をおいて目の前に現れた。優雅な白い衣装に身を包む女性?だ。


「その顔……何か聞きたいことでも?」


💬君は誰?

💬ここはどこ?

💬何その格好は?

💬なぜ私はここに?


聞きたいことなんて山ほどある。ここで聞くべきなのは……


「何その格好は?ギリシャ神話のコスプレ?」

「コスプレとは失礼な!本物の女神ですよ」

「ほぼ裸な痴女じゃん!」

「ち、痴女!?随分失礼な物言いですね」


いきなりこんな謎のところへ呼ばれたんだ。無礼になるのも当然だろう。


「あなたは死んだので連れてきたのです。魂を扱えるのなんて女神や死神ぐらいですよ」

「え?死んだの?」

「覚えてないのですか?」


突然の死の宣告……だがそんな記憶は一切ない。ただ昨日は普通に布団に入って寝てたはずだ。


「寝てる時に突然死したのかな?」

「死因は爆死ですが……」

「爆死!?それはないよ!」


普通に日本に生きていて爆死はない。寝てる最中に核戦争が起きて街ごと蒸発したのか?


「でもあなたは……」


手元の書類をもう一度見た女神はフリーズした。


「これは……ベツジン……」


今別人って言わなかった?

セリフの後半はぼそっと小声だったが聞き逃さなかった。


「どういうこと?」

「べ、別人だなんてありえませんよ。女神たる私がそんなミスをするはずがありません」

「誰も別人とは言ってないけど……」

「……ここで7徹の疲れが出るとは」

「7徹!」


神にも睡眠の概念はあるんだ。


「聖書の天地創造ですら7日目は休んだのに……もうこのまま徹夜チャレンジしちゃう感じ?」

「流石あの世界でエコノミックアニマルや社畜と呼ばれた国民……この程度は当たり前と……」

「いや、私はまだ学生だよ?バイトしかしたことはないけど」


神に睡眠は必要なのか?だが寝不足?で私は間違えて連れてこまれたらしい。


「間違いだったらさっさと本来の人と入れ替えて私を戻してよ」

「……」

「……あのー… …起きてる?」


ダメだ。考え込んで応答がない。某ブラウザなら恐竜が走り出してるだろう。しばらく時を置くと女神は話し始めた。


「流石に生き返らせるのは私にも……」

「嘘!?勝手に連れて来れたのに?」

「もし会いたい方がいたのならあちらの世界を終わらせて皆連れてくることは可能ですが」

「そこに力を使わないで……」


流石に元の世界を破壊するのはあんまりだ。


「じゃあどうしてくれるの?」

「……当初の手筈通り武器とか適当に渡すので別世界で好き勝手に生きてください」

「なんか投げやりになってない?」

「それならあなたの存在を消し去ってしまうと後腐れがないのですが……」

「とんでもない暴論だ……」

「流石に私の良心がそれを咎めます」


流石は女神を自称するだけある。思考回路がぶっ飛んでおり先が見えない。消される前に話を無理やり進めるのが得策だろうか?


「その別世界って何?」

「魔法が発達した世界ですが……」

「ネット小説でよく読んだ異世界転生ってやつ!?」

「そうなりますね」

「じゃあなんかスキルとかくれるの?」

「え?そんなのないですよ?」


詰んだ。魔法の世界で一般人が生き残れるはずがない。


「そっちの過失なんだから何か頂戴よ」

「……では余物を授けます」


そういうと私の前に武器や小道具の入った箱が現れた。本当に余物というよりはガラクタと言うべきだろう。


「何コレ?」

「かつての転生者が使ってたものですね」

「だから武器が多いのか」


💬元の持ち主は?

💬おすすめの武器は?

💬銃の弾丸どうするの?


……質問したいことが多すぎる。ここで聞くべきは……


「元の持ち主は?追い剥ぎ?」

「皆死んだので気にしなくてよいです」


予想通りだ。この自称女神はこちらの命を路傍の石程度にしか見てない。極力こちらから話を振って進めるしかなさそうだ。


「おすすめの武器は?」

「武器よりまずこのイヤリングですね。通訳の魔法石が嵌められてます」

「必須じゃん」

「ですが放置しすぎて魔力は僅か。向こうで補充してください」

「バッテリー切れ押し付けるな!」


電池が石に変わっただけ!?温めたら少し動くかな?


「あとは武器……」

「近接武器が主力な世界です」

「素人が剣を握っても何もできないよ」


とりあえずデカくて強そうな円柱形の武器を手にした。だが使い方が分からない。まず手榴弾に着いてそうなピン?を抜いてレバーをアレしてこうして……


「対戦車無反動砲の使い方を知ってるのですか?」

「対戦車?人に向けるものじゃないんだ」

「それすら知らず触るのは勇気がありますね……」

「まあ一度死んでるならもう何してもノーダメージ?みたいな?」

「思ったより適応力が高くて助かりました」


むかつく。気が変わった。私が今望むのは異世界で生き延びることじゃない。本当にしたいのは……


💬勝手に殺して何様のつもり!

💬……(無言で殴る)

💬……(筒を向ける)


どれにするか悩んだがすぐに決まった。私は筒を女神に向けた。


「そのキレイな顔を吹き飛ばしてやる!」

「!?」


女神が反応する前に私の指はオレンジのレバーを倒しトリガーらしきものを押しこんだ。

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