第10話 新たな光

 略奪者たちが撤退した翌日、工場内は静けさを取り戻していた。しかし、その静けさの中には、疲労感とともに生まれた新たな団結の気配が漂っていた。タクマは早朝から工場の損傷箇所を確認しながら、次の危機に備えた修復作業を進めていた。


「タクマ、少し休んだら?」


 ミサキが声をかける。彼女も一晩中寝ておらず、目の下にはうっすらとクマができている。それでも、タクマの方を心配そうに見つめていた。


「休んでる場合じゃない。次にまた襲撃が来たら、今度は持ちこたえられないかもしれない。」


「だからこそ、体を休めるのも大事よ。」


 ミサキの説得にもタクマは頑なだった。しかし、そのとき遠くから少年の声が響いた。


「タクマ兄ちゃん!外に人が来た!」


 タクマとミサキは顔を見合わせ、すぐに入口へ向かった。工場の外には、薄汚れた服を着た一団が立っていた。彼らは小さな荷車を押し、手を挙げてこちらに敵意がないことを示している。


「誰だ?」


 タクマが声をかけると、グループのリーダーらしき中年の男が前に出た。


「俺たちは別の集団から来た者だ。略奪者に襲われて、逃げ延びてきた。助けてほしい。」


 その言葉に、工場内の人々の間にざわめきが広がる。昨日の襲撃の記憶が生々しく残る中で、新たな来訪者を受け入れるべきかどうか、誰もが迷っていた。


 ---


 会議が開かれた。工場の住人たちはそれぞれ意見を述べる。


「これ以上、人を増やすのは危険だ。」


「でも、助けを求める人たちを追い返すなんてできない。」


 意見は真っ二つに割れた。タクマは黙って皆の言葉を聞いていたが、やがて立ち上がった。


「俺たちは昨日、団結してこの場所を守り抜いた。ここを守るために戦ったのは、ただ生き延びるためだけじゃない。人としての誇りを守るためでもあるんだ。」


 その言葉に、場の空気が変わった。タクマは一団を受け入れるべきだと提案し、最終的に彼の意見が採用された。


 ---


 新たな仲間を迎え入れた工場では、再び活気が戻りつつあった。彼らは略奪者に襲われた経験を共有し、タクマたちに警戒すべきポイントを伝えた。また、新しく加わった人々の中には、機械の修理や農作業の知識を持つ者もおり、工場の生活を支える大きな力となった。


 タクマはその中でも特に、一人の青年に注目していた。リュウと名乗るその青年は、工場の構造や防衛戦略について深い知識を持っていた。


「君、どこでそんな知識を?」


 タクマが尋ねると、リュウは少し笑いながら答えた。


「前に軍の訓練を受けてたんだ。でも、今はただの逃げ延びた生き残りさ。」


 彼の言葉にタクマは警戒しつつも、その能力を活かすべきだと感じた。


「もし良ければ、工場の防衛計画を手伝ってくれないか?」


「もちろん。ここで生き延びるためなら、何だってやるよ。」


 ---


 リュウの指導のもと、防衛計画が進められた。工場の入口にはバリケードが強化され、新たな見張り台が設置された。また、簡易的な罠や監視システムも作られた。


「これで少しは安心できるな。」


 リュウが完成した防御ラインを見て満足げに言うと、タクマも頷いた。


「君がいてくれて助かったよ。」


 その夜、工場内では久しぶりに穏やかな時間が流れていた。住人たちは簡単な食事を囲みながら、笑顔を見せ合っていた。タクマもその輪に加わり、ミサキとリュウとともにこれからの計画を話し合った。


「次にやるべきことは食料の確保だな。」


 ミサキが言うと、リュウが頷いた。


「近くに使われなくなった農場がある。そこを調べれば、何かしら役立つものが見つかるかもしれない。」


「それなら明日、調査に行こう。」


 タクマが提案すると、二人も同意した。


 ---


 翌日、タクマ、ミサキ、リュウの三人は農場へ向かった。道中は静かで、風に揺れる草の音だけが耳に届く。


「ここだ。」


 リュウが指差した場所には、古びた建物と荒れた畑が広がっていた。一行は慎重に中を調べ始めた。


「これ、まだ使えそうだ。」


 ミサキが見つけたのは、大量の缶詰と乾燥食品だった。さらに、リュウが古いトラクターを見つけ、その修理が可能だと判断した。


「これはいい収穫だ。」


 タクマが満足げに言うと、リュウも笑みを浮かべた。


「これで少しは楽になるな。」


 だが、その時、遠くから銃声が聞こえた。一行は一斉に身を低くし、音の方向を確認する。


「戻るぞ。急げ!」


 タクマの指示で三人は荷物を抱えながら工場へ急いだ。工場が視界に入ると、見張り台の一人が彼らを見つけ、警鐘を鳴らした。


「何があった?」


 工場に戻ると、住人たちが集まり、不安そうな顔をしていた。先ほどの銃声が略奪者の動きを示しているのか、それとも別の危機なのか、誰も分からなかった。


「とにかく警戒を強めよう。」


 タクマがそう言うと、皆がそれぞれの持ち場についた。その夜、工場内には再び緊張感が漂っていたが、タクマの胸には確かな希望の光が灯っていた。


「俺たちは生き延びる。必ず。」


 その言葉は、自分自身への誓いでもあり、新たに加わった仲間たちへの約束でもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る