第14話 終わらない検討

 次の予約が入っているということで会議室を追い出された僕たちは、オフィスフロアの片隅に設置されたブース席で検討を続けていた。


「いや、だからそれだとデータの整合性チェックの意味がないだろ」


「ですが、ここまで待たないとデータ揃わないことになってるんで、この前段階だとそもそも整合性チェックができないんですよ」


 綿島わたじまさんと涼木すずきさんがホワイトボードの前に立ち、SHHソフト社からいただいた設計書の読み取りと、改善案を議論している。データの整合性に不安があるということなので、整合性チェックのタイミングを変える話をしているようだ。


 少し前まで佐東さとうさんも加わっていたが、元々担当している基幹システム開発のメンバーに呼ばれて出ていってしまった。


「そんなわけ……あったわ」」


 綿島さんの言葉を否定しようとした涼木さんが、ノート PC を操作して設計書を確認する。だが、綿島さんの言葉通りだったようだ。


「嘘だろ。どうなってんだよ、このシステム」


 涼木さんが頭をかかえている。


「……これ、データ連携のミドルウェアと連携する形に改修しちゃったほうが早くないです?」


 同じく設計書を眺めていた綿島さんが、突飛なアイデアを出す。だが、涼木さんの反応は芳しくない。


「それはもう改修じゃなくてリプレイスの規模になるだろ。データ連携後の処理が特殊すぎる」


 二人してああでもないこうでもないとやっている横で僕は何をしているかというと、システムログを目視で解析中。設計書に載っていない何かがないかと微に入り細を穿つ気持ちで、システムログの文字列と格闘しているのだ。とはいえ、そうホイホイ望んだものが出るわけもなく、三人とのに動きも声も止まった。


 そんなとき、ブース席の壁をノックする音。三人そろってブース席の入り口を見ると、そこには小野里さんの姿が。


「お疲れ様です。岳仲さんはともかく、涼木さん、綿島さんがこんな時間までいるなんてめずらしいですね。例のセキュリティホール案件ですか?」


 小野里さんは、中途採用で一年くらい前にメグレズ・インフォメーションテクノロジーズに入社した人である。僕は新卒で入って三年目なので、入社年次で見ると後輩なのだが、年齢は僕の一つ上の26歳。


「SHHソフトさんの話だけど、ちょっと違うな」


 小野里さんの直属の上長である綿島さんが代表して回答する。SHHソフトさんとの打ち合わせ状況と、契約することは確定なので手が空いている今のうちに検討だけでも進めてしまおうという話も説明する。


「新しいお仕事はありがたいですね」


「そういう小野里こそ、こんな時間までどうした?」


「綿島さんには申請あげてますけど、担当案件の本番環境リリースがこのあと深夜にあるんですよ。今は準備終わったんで、晩飯でも買いに行こうかと思ってたとこです。まだ続けるようでしたら、晩飯買ってきましょうか?牛丼屋でよければですけど」


 小野里さんの申し出に、僕たち三人とも感謝しながらお願いすることにした。佐東さんの状況が気になるも、代わりに頼むわけにもいかないので、三人分だ。それぞれお願いした分の金額を渡すと、小野里さんはすぐに買いに行ってくれた。


 小野里さんが買い出しに行ってくれてすぐ、僕はシステムログで気になる記述を見つけた。


「あれ。涼木さん、綿島さん。もしかしたら、本当に設計書への反映漏れあるかもです」


 そう声をかけると、涼木さんと綿島さんが僕の近くに集まってくる。気になる記述を二人に説明すると、設計書の再確認をすることになった。


 三人で設計書を見直していると、小野里さんが帰ってきた。


「ちょうどいいから休憩にしますか。小野里も一緒に食うか?」


 綿島さんの声に、僕のお腹がぐーっと鳴り出す。


「の、飲み物とってきます!」


 お腹が鳴ったことを誤魔化すように、僕は席を立つ。近くのウォーターサーバーで四人分の水を用意し、ブース席に戻る。ノート PC は端に寄せられ、テーブルの上はご飯が食べられる状態に。僕は水を配ると、元々座っていた席に再び座った。


 その後、四人で牛丼を食べながら、仕事の話や雑談などをしていった。今まであまり話したことのない涼木さんだったが、趣味に熱い人だとは知らなかった。


 牛丼を食べ終えると、小野里さんは予定していたリリース作業に。僕たちは再び検討作業に戻っていった。


 21時を過ぎたころ、僕のスマートフォンが鳴った。美羽さんからのチャットだった。


『お父さんの容体が落ち着いたので、よかったら病院に来ていただけませんか?』

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