第12話 信頼の証明
朝日を反射して輝くガラス張りのビル。僕は、SHHソフトの本社ビルを見上げながら、無意識に背筋を伸ばしていた。
「おう。
エントランスに足を踏み入れると、
「んじゃ全員揃ったんで、今日のステアリングコミッティでの役割を確認しておきましょう」
セキュリティホール対応のプロジェクトマネージャーとなった綿島さんが仕切り始める。
「佐東さん、涼木さんは、今まで進めてきた案件側の説明をお願いします。セキュリティホール以外の仕様変更や要望対応があれば、そこの費用は追加見積もりとなるので後日に回しましょう。高梁さんは、今回のセキュリティホール対応での追加費用は発生しないことを説明してください」
事前に話し合ってきたことの再確認をする綿島さんに、佐東さん、涼木さん、高梁さんは頷いて了承を示す。
「で、俺は事前にお送りしている説明資料にそって、セキュリティホール対応の概要とスケジュールを説明します。先方にセキュリティ詳しい人がいるかはわからないが、セキュリティ技術関係の質問は岳仲から回答してくれ。今は正確性が大事だから、自信を持って答えられないことは持ち帰って確認でいいからな」
「は、はい。わかりました」
気を抜いていたわけではないが、急にこっちを見た綿島さんにびっくりした。そんな僕を見て、綿島さんはニヤリと笑う。
「業界最大手の SIer からの仕事に不備を出したからって、命まで取られるわけじゃない。お互いに全力を出せば、ちゃんと終わらせられるさ」
そんなことを言いながら僕の肩を叩く綿島さんのおかげで、少し肩の力が抜けたような気がした。年齢で言えば綿島さんは僕の三歳上。だが、三年後の僕が綿島さんと同じような動きができる気はしなかった。
そうこうしている間に、高梁さんが受付で来訪を告げてくれていた。セキュリティカード代わりの入館証をもらい、入場ゲートに進む。ゲスト用の入場ゲートには、警備員さんが立っており、荷物の確認をしていた。他の人たちに倣って、僕もカバンを開けて内容物を確認してもらう。荷物と言っても、ノート PC と筆記用具くらいしか入っていないが。
入場ゲートを通った僕たちは、高梁さんの先導に従って、エレベーターに乗り込む。高梁さんは手慣れたように15階のボタンを押す。
「こっちです」
エレベーターが目的の階に到着。高梁さんが会議室の場所を教えてくれる。会議室までの廊下を歩きながら、僕はこっそりと深呼吸をした。
「……僕に守れるかな」
弱音が言葉になる。急に発生した仕事の責任と、美羽さんを守ると決めた約束。僕なんかに両方とも守れるとは思えなかった。
「お待ちしておりました。では、会議室の中へどうぞ」
会議室前には、若い女性社員が待っていた。高梁さんたちとは顔見知りなのだろう。高梁さんが声をかける前に、女性社員のほうが一礼して会議室のドアを開ける。
広い会議室に入りながら、僕は心の中で誓った。必ず、両方守ってみせると。
会議室の中で、僕たちに割り当てられた席に案内される。カバンを置くと、高梁さんに連れられて、綿島さんと一緒に先方が座るほうに近づいていく。名刺交換って苦手なんだよな。訪問した側から挨拶するんだっけ。あまり使わないビジネスマナーを思い出しながら、僕はセキュリティエンジニアと名乗って先方の会議参加者と名刺交換をしていく。この場にいる人たちの中で一番役職が上なのは、取締役の
名刺交換を終えた僕たちは、それぞれの席に戻る。全員が座ったのを見て、佐東さんが会議の開会を宣言した。
そこからは、事前に提出したアジェンダに従って会議が進んでいく。受入テストの進捗状況。使い勝手の点でいくつか要望が出ているらしい。修正規模の大小を見て、対応を検討することになった。うちとしては、後続案件に入れたいところだろう。
そして、セキュリティホールの話になった。担当である綿島さんが資料に沿って状況と対応方法、スケジュールを説明していく。
「先ほどご挨拶させていただきましたセキュリティエンジニアの岳仲が、弊社側の技術的な中心となって対応を進めさせていただきます。既存の基幹システムの保守期限もあるとお伺いしておりますため、リプレイスの時期を変えないよう、セキュリティホールの対応を進めていく想定です。状況によっては、一部ご相談させていただくこともご了承いただけますようお願いいたします」
綿島さんの説明に対し、先方の技術者からいくつか質問が出る。セキュリティ技術に関する質問は、綿島さんから僕に聞く形で回答させてもらった。だが、なんとなく、会議の雰囲気に違和感を感じる。大企業の仕事は今回が初めてだが、なんとなくセキュリティホール対応とは違うことが原因の緊張感があるように感じていた。
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