屋台を練り歩いて花火

 海浜公園は、いつかの神社の縁日と比べればこじんまりとしているものの、比較的屋台が並んでいて賑わっていた。

 私と螢川くんはふたりでなにを食べるかと屋台を眺める。


「焼きとうもろこしとか、りんご飴とか。屋台じゃないとなかなか食べようって思いつかないものあるよなあ」

「そうだねえ。りんご飴は専門店とかもあるけど、わざわざりんご飴専門店で食べてみたいって思わないしね」

「あるの? マジで?」

「うん。あるよ。焼きとうもろこしも、バーベキューでやろうと思えばやれると思うけど、不思議とやらないよねえ」


 ふたりでとりとめのないことを語りながら、ひとまずは焼きとうもろこしを買った。りんご飴は綺麗に食べる方法がわからないけれど、焼きとうもろこしだったらなんとかなりそうだと思ったんだ。ふたりで焼きとうもろこしにかぶりつくと、タレの焦げた部分ととうもろこしの甘みを思いっきり感じておいしい。


「おいしい!」

「うん、おいしい。花火も多分あとちょっとではじまるとは思うけど。それにしても本当に結構な数の人がいるなあ」

「うん。浜辺のほうは有料席だから、ほとんど座れないんだ。この辺りからでも見られるけど、座るところはないからね」

「そうだなあ」


 焼きとうもろこしを食べたあと、ふたりで軽く運動をしてみようと、金魚すくいに行ってみる。金魚すくいにスーパーボールすくいは盛況だ。

 金魚はポイを使って一匹二匹はすぐにすくえたけれど、三匹すくったらポイの和紙が完全にふやけてしまい、四匹目に思いっきり逃げられて穴が空いてしまった。


「あちゃあ……」

「はい、お疲れ。金魚いるかい?」

「ええっと……遠慮しておきます」


 本当だったら金魚すくいの金魚は飼いたいけれど、今うちにいる金魚があまりに大き過ぎて、これ以上水槽に金魚を入れたら狭くなりそうで我慢した。

 一方の螢川くんは、かなりすくっていた。器に入っている金魚が、既に十匹近くピチピチしているので、周りもざわついて眺めはじめている。


「螢川くんすごいねえ……」

「うーんと、すごい訳ではないんだがな」

「でもこんなによくすくえたね……ポイもすごいねえ」


 螢川くんのポイは、私と同じくらいにはじめたのに、まだ和紙がふやけておらず、それどころか半分くらいしか濡れてない。どんな金魚すくいのセンスをしているんだろう。私と大違いだ。

 金魚すくいの屋台の人も緊張した顔で見ている中、だんだん金魚すくいの屋台の金魚が減ってきていた。ほとんど螢川くんがすくってしまったんだ。

 最後の一匹をすくおうとしたところで、金魚がブチッとポイの和紙を突き破る。そのまんま水槽にボチャンと逃げ出そうとしたとき。

 螢川くんはよりによって、ポイの縁の部分だけを狙って金魚を引っ繰り返すと、そのまんま器にぽいっと入れた。

 辺りは拍手に包まれる。


「あっ……すみませんっ、屋台空っぽにしてしまって!」


 ずっと集中していたのか、ようやっと我に返って水槽から金魚が消えたことに気付いてあわあたしはじめた。

 屋台の人は笑いながら拍手している。


「いやいやいいよ。こっちも面白いもん見せてもらったしねえ。お礼と言っちゃ難だけれど、金魚一匹持って帰っておくれ」

「ええっと……ありがとうございます」


 袋に黒いデメキンを入れてもらい、私たちは頭を下げて金魚すくい屋台から離れていった。


「すごかったね、本当に」

「いやあ……イメージというか」

「うん」

「夏休み、全然遊べなかったから、これやりたいあれやりたいをずっと考えてたからかなあ」

「想像だけで金魚すくい上手くなったりはしないよ。反射神経よくって、動体視力よくって、金魚のことよく見れないと」

「そうなのかな」


 私は螢川くんの連れている金魚を見ながら、ふたりで歩いて行く。

 そうこうしていたら、小さい子が泣いているのが見えた。デジャブ。いつかの遊園地で子供に泣かれたときに、防犯ブザーを鳴らされたのを思い出した。

 でも螢川くんはさっさと小さい子に近付いて、しゃがみ込んだ。


「どうしたんだ? お父さんとお母さんは?」

「ゆうせんせきって言ってたけど、迷子になったみたい」

「ゆうせんせき……優先席か」

「多分有料席のことだと思うけど……お父さんとお母さん、どうして君を置いていったのかな?」

「『ここでまってなさい』って言ってたけど、いつまで経っても帰ってこないから……」


 あれだ。私たちは比較的人の空いていた焼きとうもろこしとかりんご飴とかの屋台を見ていたけれど、主食になりそうな焼きソバやたこ焼き、うどんやケバブ、クレープの屋台は人だかりになって、なかなか動かなかった。多分暗い中で待ってて心細くなってしまったんだろう。

 それに螢川くんは笑った。


「そっか。お父さんとお母さんが迷子になって探しに来たんだな! でもお父さんとお母さんも不安がって君を探しに行ってすれ違うかもしれない!」


 そう言いながら、なんの躊躇いもなくその子を肩車した。体幹がいい。私は慌てて小さい子の靴とデメキンの入った袋を持ってあげると、有料席に案内しはじめた。


「海浜公園を出てすぐの浜辺。そこに有料席があるから、あとはスタッフさんに言えばいいと思う。多分ここの設備だったら迷子放送とか流してもらえないと思うし」

「そうだなあ。じゃあ行くか」

「うんっ!」

「君は勇敢だな、本当に!」


 私はそんな螢川くんを見て、またしてもキュンキュンとしていた。

 勇敢なのは、螢川くんもだよね。防犯ブザーを鳴らされて怖がられようが、小さな子が泣いていたら、すぐに見境なく助けようとする。

 私たちは海浜公園を出て、浜辺を歩いて行く。

 海浜公園は屋台のご飯の匂いのほうが勝っていたけれど、浜辺に行けばいよいよ磯の匂いが濃くなる。もうすぐ花火がはじまるんだ。

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