協力①
予定を合わせた、それから二週後の日曜日。
星哉は、陽太の家の前へとやってきていた。
あのあと陽太に、まずはアイドルのライブDVDでも見てみる? と言われてその言葉に頷いた。けれど星哉はそもそもあまりアイドルに詳しくない。
「アイドルのライブって言っても、グループごとにいろんな違いがあるんだよな。誰が演出をしているとか、衣装を決めてるとか、セトリを決めるとかで全然変わってくるし。音楽番組だけじゃ、伝わり切らないグループの魅力がライブだと前面に押し出されてくるからさ、絶対見て欲しいんだけど。だけど最初は、星哉が興味を持てるグループの方がいいよなぁ」
そう言われて、星哉はすっかり困ってしまった。音楽番組くらいは勉強をかねて、と思って見ることもあるけれど、じゃあ誰が特に気になる、とかは考えてみたことがなかった。それに、そもそも星哉が誰のライブDVDならもっているかもわからない。
迷った末に、陽太から提案されたのが家に来る? だった。
「広い家じゃないけど、テレビもあるし。それに実物を見た方が星哉だって決めやすいだろ?」
その言葉に、星哉は一も二もなく頷いた。
友人の家にお邪魔するのなんて、いつぶりのことだろうか、と思う。小学校の頃は言わずもがな、中学高校ともなれば遊ぶ場所も変わってくる。特に私立となれば住んでいる場所もばらばらだ。東京ならいざ知らず、地方の私立には時間をかけて通学しにくる子も多い。そうすれば学校近くか、周辺の大きな駅で遊ぶのが常だった。
とはいえ星哉は、中高もあまり遊ぶ時間はなかったのだが。
大学生になってからは一人暮らしをしている人も多いし、もしかしたら誰かの家に泊まったり、遊んだり、というのがあるのかもしれない。けれどそれも、星哉には縁遠い話だった。
医学部、というのは案外閉鎖的な社会だ。一学年の人数もさして多くないし、必修の授業ばかりとなれば人も入れ替わらない。部活動やサークルの繋がりが縦にも横にも重要になってきて、その繋がりをベースとしながらテストをはじめとした様々なイベントを乗り越えていく。
けれど星哉はそもそも部活動には入っていない。そうなれば、必然的に関わりのある人間は限られてくる。その数少ない友人達とも、特別仲良く過ごしているわけではない。この辺りは大学生特有の自由さがあるからだろう。無理に友人をつくらなくとも、どうにかなる。
陽太の家は、東京郊外の学生マンションの一室だった。周りは住宅地で、静かだ。いくら東京といえども、都心を外れれば静かなところもある。このあたりはどこか地元の雰囲気と似ていて、懐かしさを感じさせる。
陽太はマンションの前に立っていた。こちらに気付いて手を振る。それに応えるように星哉も手を振った。
「迷わなかった?」
「うん。待っててくれたの?」
「念のため。だってここら辺、似たような建物が多いしさ。間違えるかもしれないだろ?」
「ありがとう」
二人並んで階段をあがる。どうぞ、と案内されて部屋に入った。
入った部屋は、整頓されていて綺麗だった。家具はモノトーン調でまとめられていて、掃除が行き届いている。けれど殺風景ではない。
星哉が一人暮らしをしている部屋は、ひどく殺風景だ。最低限の家具だけ置いている。実家では部屋を綺麗にしていないと母に怒られたから、今も部屋を綺麗にしていないと罪悪感で落ち着かない。ものが増えればその分だけ掃除というのは面倒になるものだ。だからいつでも掃除しやすいように、部屋にはあまりものを増やさないようにしていた。
適当に座ってよ、と言われて星哉はローテーブルの前に座った。人の家はどうも落ち着かない。居心地悪そうに座っている星哉をはは、と笑いながら、陽太はどうぞ、とお茶を出す。
それからテレビの下のラックに手を伸ばすと、半透明のプラスチックの箱を出した。
「それで、俺の家にあるDVDはこんな感じ」
「けっこう、あるね……」
「母さんの妹が持ってたやつも貰い受けてきたからな。古いのから最近のまでけっこうあるよ。何グループかあるし」
「わぁ……」
一枚一枚手に取って見ながら、星哉は感嘆の声を上げた。CDショップに並んでいるのは見かけたことがある。けれど、薄いフィルム一枚がないだけで、なんだかそわそわしてしまう。商品として手に取るだけではなくて、今からこれを見てもいいんだ、という感覚はすこしばかり違うものだ。
知っているグループもあれば、名前くらいしか聞いたことがないグループもあった。そんななかで、やはり星哉の手を止めるのはファイブスターズのものだ。
ライブにほとんど行ったことも無ければ、アイドルに疎い星哉でも知っている。彼らのライブはすごい、と有名だ。演出や、ステージの使い方がずば抜けて上手いらしい。人気すぎて全然当たらないそうだ。
「陽太のおすすめって、ある?」
星哉が尋ねれば、陽太は少し悩んだあと、これかな、と一枚のDVDを指さした。じゃあこれをみてみようかな、と星哉は言う。
「再生するね」
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