第19話 水着

 レイクの焦り顔を見たあと、わたしはマーヤと一緒に試着室にいた。

「まだお決まりにならないのですか?」

「うん、だって水着だよ! 攻めすぎるのも、守りすぎるのも嫌じゃない!?」

 攻めすぎると、何気合い入れていると笑われる。

 でも守りすぎるとスタイルでバカにされる……ような気がする。

 少なくともジオのような、ちゃらんぽらんがいるから難しいのだ。

 これじゃまるであいつを意識しているみたいで格好悪いけどさ。

「アヤメさまならなんでも似合いますよ」

「マーヤ、悪い冗談よ」

「冗談じゃありませんよ。まあ、イケメンに囲まれるのは分かりますが……」

 苦虫を噛み潰したような顔をするマーヤ。

「それで? 何になさいますか?」

「ちょっと待って!!」

 つい大声を上げてしまう。

 マーヤがちょっと涙目になっているじゃない。なにやっているんだ、わたし。

 目を閉じて最初に触れたものにする。

「これ」

 こうして水着を一つ選ぶことに成功した。


「遅い、ぞ……」

 ジオが驚いたような顔をしている。

 まるで初めて女子を見たような顔だ。

「似合っているな」

「そ、そう。ありがとう」

 ジオが褒めるなんて思わないじゃない。

 どぎまぎしてしまった。

「よく似合っている、アヤメ」

 ペルーは慣れたように言う。

「ふーん」

「何か悪いこと言ったか?」

「さあ?」

 苦笑を浮かべるジル。

「まあ、攻めていろとは思ったけどさ」

 やっぱり黒ビキニは失敗だったかな!

 ちょっと恥ずかしい。

「いいじゃないか。それよりむさ苦しくてごめんな、アヤメ」

 レイクがにこやかに笑みを作る。

「い、いえ」

 わたしはそんなに気にしていないけどね。

 それよりも。

「それで、この後はどうするの?」

「普通に遊ぶだけだが?」

「もしかして海は初めてですか?」

 ペリーが尋ねてくる。

「はい。あの街から出たことすらなかったので」

 やれやれと言いたそうなレイク。

「今度は貧民街にも支援しないとダメかもしれないな」

「そうですね。貧民が娼婦や犯罪に手を染めるケースは多いと聞きますし」

 ペリーはおとがいに手を当てて考え込む。

「治安の悪化は避けたいな」

「ああ。あそこは俺も手を焼いている。必死だから強いんだ」

 ジオも怪訝な顔を見せている。

「分かった。解決案を模索しよう」

 ジルがそう言うとこちらに向き直る。

「そのためにもアヤメがモデルケースになるんだ」

「え? わたし?」

「ああ。頭の固い連中に示さねば」

 王様がそう言うのだ。

 間違ってはいないのだろう。

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