第17話 菓子

「おい。そろそろ行くぞ」

 レイクがわたしの顔を見てニコニコとしている。

「あー。はい」

 わたしは後ろ髪を引かれる思いで寮を後にする。

 馬車に乗り込み、わたしの身体は南海に向かって走り出す。

「夏のビーチは素晴らしいぞ」

 レイクはそう言い、馬車の中でジュースを飲む。

 優雅な姿勢でちょっと格好いい。

 でもなー。

 どうしてレイクはわたしを選んだのだろう。

 王族だから貴族とじゃないと世間体が悪い。

 ましてや盗賊であるわたしとなんて、ありえないだろう。

 でも恋は盲目とも聞くし。

 まあ、この言葉もペリーに教えてもらった言葉だけど。

「まあ異界の地の食事も美味しいぞ」

「本当!?」

 わたしは目を見開き、その話の詳細を聞こうと耳を傾ける。

「詳しく教えて」

「あ、ああ。まずは芋料理だ。フライドポテトという菓子があるらしい」

「芋なのに、菓子……ですか?」

「そうらしい。未知の食べ物だな」

 クツクツと笑うレイク。

「それは楽しみですね」

 わくわっくだぁ~。

 うまいメシが食えるなら、ちょっと遠出をしてもいいかも。

「しかしまあ、他の者までもついてくるとは……」

 ジオに、アレン、ペリーまでついてきている。

「しかたないですよ。護衛をつけないといけない身なのですから」

 わたしはそう言いクッキーを頬張る。

 このクッキーとやら日持ちはいいのに、こんなにも甘くうまいのだ。

 これを食べてからというもの、目の前に出されると食べるようになっていた。

 盗賊の頃から六キロも増えた体重を気にしつつ、手が止まらない。

 わたしはこのクッキーに毒されたのだ。

 もう、どうしてこんなにもうまいのだ。

 わたしには分からないが、どうしても手が止まらないのだ。

 食べるしかなかろう?

 そこにクッキーがあるなら、食べるのがマナーというもの。

 いや、勝手に言っているだけか。

「さ。紅茶も飲みな。アヤメ」

「はい」

 クッキーの唯一の欠点は口の水分がもっていかれることだ。

 それを紅茶で潤す。

 ちなみに紅茶は砂糖をたっぷりいれてある。

 甘いに甘いで、最高に甘い。

 まるでどこかの恋愛小説のようだ。

 甘いのは嬉しいが、太るのが気になる。

 悶々とした気持ちで紅茶とクッキーを口にする。

 まあ、いいか。

 誰かに見せるわけでもない身体なんて……。

 わたしはそんなに優れた人間でもないし。

 うまく言えないけど、みんなわたしを妹くらいにしか思っていないのだろう。

 歪んだ性格だしな。

 うんうん。

 わたしは自分を納得させるとクッキーを頬張る。

 うまい。

 これこそ菓子だ。

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