第15話 気分
「アレンとのデートどうでしたか? アヤメさん」
図書室でペリーが本を開きながら訊ねてくる。
「いや、まあ……」
そんな気分なんてこれっぽっちもなくて困っているとペリーが察したようにしゃべる。
「ふふ。そんなに気にしなくても大丈夫ですよ。ご婦人がたはこんなのしょっちゅうです」
「いや、でも……」
誠実でありたい、なんて盗賊のわたしが言えたことではないか……。
「あなたは考えていなかったみたいですし、気にする必要なんてないですよ」
「まあ、そうですが」
「ははは。そんなにかしこまらなくても」
苦笑を浮かべるペリー。
「過去は過去。問題は未来ですよ」
そう言いながら胸元にあるロケットに手をやるペリー。
その所作に少し疑問を覚えたものの、わたしには話を聞く覚悟がない。
「未来、どんな人と一緒にいたいですか?」
「……どうでしょう。考えたこともないです」
「それなら、今度は意識してみてください。何か変わるかもしれませんよ?」
どういう意味で言ったのか、分からずにその日の座学は終わった。
アレンとの魔法訓練に向かう途中。
わたしは気が重くなり、トボトボと歩く。
気がある相手とどう会えばいいのか分からずに曇り空を見上げる。
いっそ槍でも降ればいいのに。
「なにやっているんだい?」
マーヤがわたしの背中を押す。
「次は魔法訓練だろう?」
「ええ。まあ……」
「さ。おゆき」
「でも、わたしにはそんな気がなくて……」
「それはアレンの問題だよ。気にするな」
ポンッと背中を押してくれるマーヤ。
「そっか。そうですよね」
顔を緩めるマーヤ。
「そうだよ。頑張れ」
「ありがとうございます。行ってきます」
わたしは決心してアレンのもとに向かって走り出す。
「遅いぞ。ボクがどんな思いで待っていたか……、キミなら――」
わたしはアレンのもとに駆け寄る。
「って、誰だ!? お前!?」
わたしはウマのかぶり物をしてアレンの前に立つ。
「いやー。素顔を見られるのが恥ずかしくて……」
「その声、アヤメか……?」
「そんなに気になるならとってもらいましょうか?」
「……いやいい。興がそがれた」
よし。ギャグ補正がかかった。
これでアレンはわたしのことを諦められる。
「おもしれーおんな」
口走るアレンの言葉を不思議に思いつつも、ウマのかぶり物をぬぐわたし。
「さ。魔法訓練の時間でしょう?」
「……そうだな。今日もマナ変換を学んでもらおう」
「はい。やります」
「おっ。やる気充分だな」
少し嬉しそうにしているアレンがいる。
なんでだろう。
不思議。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます