第14話 約束

「アヤメ、アレンと一緒に出かけたのは間違いないか?」

 応接間にて、レイクが神妙な面持ちでわたしに訊ねてくる。

「まあ、出かけましたけど」

「……俺の断りなし、にか?」

「必要でしたか?」

「ああ」

 悔しそうに顔を歪めるレイク。

「いや、ただ単に出かけただけですし」

「敬語の方はだいぶ覚えたな」

「そうですね。マーヤさんに仕込まれたので」

「そうか」

 話が続かない。

 というか、なんで呼び出されたのだろう。

 わたしは怪訝な顔をレイクに向ける。

「いや、俺だってアヤメと出かけたいのだよ」

「そうなのですか? じゃあ、出かけましょう」

 また劇場とか行ってみたい。

 あとおいしいものたくさん食べたい。

 王宮の食事よりも、もっと庶民的な食べ物を食べたい。

 もやし定食で満足するくらいだ。庶民の食べ物はわたしにあう。

「でも、俺は忙しくてな。来週なら予定があきそうだが……」

「行きましょう。ぜひ」

 うまいメシ食べたい!

「そうか! 行ってくれるか!!」

「ええ。もちろん!」

「ならいい。おって連絡する。待ってくれ」

「はいっ」

 嬉しさで笑みを浮かべるわたし。

 ああ。楽しみだな~。


 応接間から出て剣の訓練がすぐに始まる。

 ジオが木剣を渡してくる。

「さ。始めるぞ」

「うん。いくよ」

 わたしは木剣を振りかざし、突撃する。

「甘いぞ」

 わたしの突き出した木剣をいなし、蹴りを入れてくるジオ。

「ははは。さすがジオ」

「小娘には負けん」

 ぎろっと目を澄ますジオ。

 何度も切り結ぶわたしたち。

「剣技にはそのものの心が現れる。アヤメはまだその領域まで達していない。精進しろ!」

「はい!」

 木剣を振りかざすわたし。

 でもジオは強い。

 背後からの攻撃をかわし、蹴りあげた小石をデコピンで額にぶつけてくる。

「はぅ……!」

「お前、アレンと出かけたそうだな」

「うん? なんでみんなそんなに気にするの?」

「それはデートだろ?」

 デート。

 それは好きな異性と出かけること。

「えっ。そんな気なかった!?」

「……バカか。お前は」

「もしかして、みんなそれを心配して?」

「そうだろうな。特にレイクは」

「そっか。そういう意味か……」

 なるほどと納得してしまう自分がいる。

「じゃあ、アレンはわたしのこと、好き……?」

「だろうな。あのメガネは軽はずみな行動はとらん」

 本気でわたしのこと好きなのか。

 でもわたしにはよく分からない。

 大事にしたいだとか、好きだとか。

 そんなのは分からない。

 わたしは生きることで精一杯でそんなこと考えたこともなかった。

 毎日、うまい食べ物を食べられるだけで幸せであった。


 そのわたしが恋?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る