第13話 劇場
劇場の入り口でチケットを見せるアレン。
あれ。まるで用意していたみたいじゃない。
中に入ると劇場は階段状になっており、前の席に通される。
「こんないい席、座っていいの?」
わたしは怖ず怖ずと訊ねる。
「いいよ。ボクは貴族だからね」
「そう」
わたしは棄民の子だけどね。
席につくとしばらくして劇が始まる。
内容は使い古されたシンデレラのお話。
いじめにあっていた主人公が夜会に参加し、後日王子と結ばれるもの。
どこにでもあるありふれたストーリーだったが、何も知らないわたしはのめり込んで魅入った。
まるで自分がそうだったように、過去を振り返り、今に至ると気づく。
「面白かったな」
隣に座るアレンはそう言うとわたしを見る。
ぎょっとした顔だった。
「泣いているのかい?」
「うん。だってシンデレラは幸せになれたのだもの」
「ふっ。だったらキミも幸せにならないとな」
耳までまっ赤にしてそんなことを言うアレン。
わたしはその顔を見てくすくすと笑う。
「あー。なんでもない」
恥ずかしそうに臭いセリフをはいたのだ。
そんな彼が少し好きになった気がする。
「さて。次はどこいこうか?」
「え。そろそろ帰らないとマズいんじゃない?」
「大丈夫だ。ボクがいるからな。そうだ。夕食にしようか? 時間いい頃合いだぞ」
「……そう」
夕食までごちそうになるのは悪い気がしたが、男を立ててあげるのも侍女の務めとマーヤから聞いている。
「何が食べたい?」
「ええと。特に?」
思いつかない。
「わたし、拾ったパンとかばかり食べていたから、何があるのか分からない」
「なら、ハンバーガーでも食べるか?」
庶民的な料理で貴族のアレンが言うのは珍しいが、わたしに配慮してのことと思った。
「いいの?」
「ああ。もちろんさ」
「うん。ありがとう」
そう。わたしは普通の庶民としての暮らしを夢見ていたのだ。
だからこの申し出はありがたかった。
わたしとアレンは近くにあるハンバーガーショップに向かって歩き出す。
そこで食べた照り焼きバーガーはとてもおいしかった。
わたしこの味好きになりそう。
「うん。うまいな」
アレンもそんなことを言っている。
「またこような」
そう言って王宮へと向かうわたしたち。
一日限りの遊びもそろそろ終わってしまう。
こんな生活は長く続かないのだろうとも思った。
だってわたしはなんの成果も出せていないのだから。
これまで以上に頑張らなければこの王宮から追い出されると、そう思った。
わたしは未熟者だ。
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