第10話 紅茶

 座学のため、図書館に訪れていた。

 ペリーは本を閉じ、こちらに向かって歩き出す。

「さて。今日は何を勉強しましょうか?」

 冷静で知的な彼。

 かっこいけど、本の虫。

 ちょっと引くかも。

「ペリーはなんで本が好きなんですか?」

 座学の本を選んでいる時に少し聞いてみた。

「そうですね。いろんな世界を知れる、ところでしょうか? 実は自分は子どもの頃から本を読むクセがあったので、それも影響しているでしょうね」

「わたしには本を読む機会がなかった」

「……でしょうね」

 そうでなければ盗賊になど落ちない。

「生きるって大変だもの」

 今ほど腹一杯にメシを食えるとは思わなかった。

 腐ったものを食べて腹を壊すなんてしょっちゅうあった。

 うまいメシを食える。それだけでここにいる価値はある。

 でもいつまでも勉強というわけにはいかないだろう。

 ただ飯ぐらいと思われたくない。

 わたしはそのために勉強も訓練も稽古もしなくちゃいけないのだろう。

「今日はこの物語を読めるようにしましょうか?」

「はい」

 文字の読み書きができるようになれば、世界が広がると言われている。

 わたしは席につくとペリーの言葉を信じ、難しい言葉を覚えていく。

 小一時間、勉強漬けになっていると、さすがに疲れたのか、ミスが増える。

「そろそろ休憩にしますか」

 ペリーはお茶を用意する。

 お菓子も一緒だ。

 紅茶とクッキーの組み合わせは最高と覚えているから、ついよだれが出そうになる。

「今回はチョコチップクッキーですよ」

「チョコ?」

「ええ。美味しいですよ」

 マジマジと見つめると黒い点が見える。

「焦がしたの?」

「それがチョコチップです。食べてみてください」

 怖ず怖ずと手を伸ばす。

 パリッとクッキーをかじる。

 クッキーの甘さにチョコチップの苦さが混じる。

「うん。うまい」

「さ。紅茶もどうぞ。アールグレイです」

 ずずず。

「いい香り~」

 暖かな紅茶が身に染みる。

「そろそろ簡単な絵本くらいなら自力で読めるでしょう。明日からは好きな本を選んで読んでみませんか?」

「いいよ。でもなにが面白いのか、分からないよね」

「なら、自分が選出して起きます」

 ことっとカップを置くペリー。

 その紅茶を飲む姿は様になっている。

 きっと貴族として優秀なのだろう。

 なんとなくそう思えた。

 画家がいれば、このシーンを書き写すだろう。

 それくらい絵になっている。

 イケメンだし、所作も素敵だ。

 なんだろう。彼を見ていると少し動悸が速くなる。

 そんな気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る