第9話 龍脈

「まずマナには限界がある」

 コップにピッチャーの水をそそぐ。

「このコップのようにマナの器がある。これがマナプールだ」 

 ジルは話を続ける。

「水がマナだ。マナプールに貯められるマナには限度がある」

「じゃあ、マナを使うとコップの水がなくなるってわけ?」

 こくりと頷くジル。

「そうだ。そして、水を補給するには臓器か、あるいは龍脈から受け取るしかない」

「龍脈?」

「地下を流れる霊的パス。そのマナロードから受け取るしかない」

「ふーん」

「あまり理解していない顔だな……」

「だって使えればいいでしょう?」

「ああ。だが、マナプールには限界がある。それを補うには剣術が必要だ。あくまでも魔法は補助的なものと考えてほしい」

 もやし定食にわたしは食いつく。

「わかっているのか?」

「わかっているって」

 もぐもぐと食べながら話す。

「本当かよ」

 ジルははーっとため息を吐く。

「なんでもやし定食なんだ? 給金はちゃんともらっているだろう?」

「こっちの方が安いんだもの」

「それは、そうだろうけど。でも貯めてどうする?」

「ん。何も考えていないけど?」

 何度目かのため息を吐くジル。

「まあいい」

 ジルはハンバーグをフォークでさく。

 じーっと見つめると、ジルが苦笑する。

「食べてみるか?」

 フォークに刺さったハンバーグをこちらに向けてくる。

 こくこくとうなずく。

 口を開けてハンバーグを頬張る。

 ジルが若干赤い顔をしている。

 わたしはなんのことか分からずにハンバーグを咀嚼する。

 うまい。

 柔らかい肉の感触がいい。そして甘い肉汁が溢れてくる。

 香りもいい。香草が使われているのだろうか?

「うまい」

「口調」

 ぶすっとするわたし。

「おいしいですわ」

 わざとらしく言うとジルは困ったように顔をしかめる。

「食事を終えたらペリーと座学だぞ。分かっているのか?」

「うん。でも座学は苦手かな」

「得意なことがあるのか?」

「忍び足と、盗み聞きと、盗むこと」

 指折りで数える。

「三つもある!」

「ご立派な特技で……」

 ジルは死んだ目でこちらを見やる。

 立派ではないか。

 嫌味か。

 不機嫌になりつつも、もやしを口に運ぶ。

 うーん。

 ハンバーグの味が忘れられない。

 明日からはハンバーグ定食にしようかな。

 給金の余裕はあるし。


 しかし、座学かー。

 嫌だなー。

 何を言っているのか、よく分からない。

 一応読み書きはできるようになってきたけどさ。

 面倒くさいんだよね。

 全てを投げ出して貧民街で住むことも考えたけど。

 ここでの生活は嬉しいことばかりだからね。

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