第6話 横転

「それで、わたしはどうすればいいの?」

 わたしはアレンに尋ねる。

「そうだな。まずは魔法の発現方法を教え込む。しかし、孤児が魔法か……」

 その瞳の奥に冷たいものを感じる。

 ゾクゾクと産毛が逆立つ。

「まあ、いい。それよりも。まずはマナの流れを感覚でつかむことから始める」

「感覚?」

「ああ。見ていろ」

 アレンを見ていると、若干大きく見える気がした。

「なに。この感触」

 わたしは思わず後ずさる。

 そのプレッシャーに負けたのだ。

「これが魔力だ。ちなみに今のは第一魔術だ。第十まである」

「ええと。一番強いってこと?」

「逆だ。一番弱いのが第一だ」

「それなのに、あんな……」

 わたしが魔法を使えるようになったら、誰からも脅されなくてすむのだろう。

 なら、

「詳しく教えて!」

「ふっ。そのためにボクがいるのだよ」

 若干、ナルシストな感じがするけど、わたしは力が欲しい。

 あの頃わたしを盗賊にした奴を捕らえる。

 あいつに復讐してやる。

「さ。まずは身体の中を流れているマナに意識を集中して」

「はい」

 自然と言葉も丁寧になる。

 尊敬した心が身のうちから生じた結果なのだろう。

 木剣での鍛錬よりもこっちの方がいい。

 目を閉じて身体の内側に呼びかける――が。

「全然、わからない」

「こればっかりは努力ですね。明日からはもっと集中できるよう」

「まって、今日はまだ時間がある」

「鍛錬に付き合って欲しいと?」

「はい」

「……」

 時計をチラリと一瞥するアレン。

「分かった。あと一時間だけだぞ」

「ありがとうございます」

 わたしは一礼したあと、鍛錬に戻る。

 集中集中。

 じーっと待つこと、一時間。

「まあ、そんなものだ。今日は休め」

 アレンはそう言うと立ち去っていく。

 午後六時。そろそろ夕飯時だ。

 でも負けたくない。

 見返してやるんだ。

 わたしはそのまま鍛錬を続けた。

 九時を回り、マーヤが血相を変えて近寄ってくる。

「夕飯を食べていないんだって? サンドイッチを持ってきたよ。食べな」

「ありがとう」

 わたしはバケットを受け取ろうと、立ち上がる。

 ふらっとし、そのまま横転。

 意識が薄れていく。


 ああ。わたし、死んじゃうのかな……。


 遠のいていく中、マーヤが焦った顔をしている。


 わたし、やっぱりいい子じゃないからかな。


 こんなことになるなんて。


 彼らには悪いことをしたな。


 わたし、頑張って生きたよ。


 もう夢も見られないんだね。




「ただの空腹ですね」

 医者のジルはそう結論づけると、ベッドから離れていく。

「頑張りすぎよ! アヤメ」

「そう、みたいですね……」

 マーヤのサンドイッチに齧り付いて答える。

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