第7話 回復

「アヤメ! 大丈夫か!?」

 やってきたのはレイクだ。

「いや、大丈夫だよ」

 わたしはサンドイッチにがっついていた。

「失礼した」

 レイクは慌ててカーテンの後ろに隠れる。

「食事、できるのなら安心だな」

 そう言って視線をそらす。

「いや、食事していなかったから、倒れたというか……」

 苦笑いを浮かべていると、医者から説明を受けるレイク。

「ちゃんと休めるときに休め。身体は大事にしろ」

 レイクはきっと顔をこちらに向ける。

「むっ。あんたには言われたくない」

「アヤメ。王の御前ですよ!」

 マーヤが口を挟んでくる。

「ぷっ。くくく。やっぱりアヤメは面白い。遠慮なく言ってくれ」

「じゃあ、言いますけどね。放っておくなんて酷くない!? こっちの気も知らないで!」

「悪かった。業務にキミの監査を増やそう」

 どこまでも仕事にこじつける。

 ふくれっ面を浮かべているとレイクは姿勢を正す。

「アヤメの意見をぜひとも聞きたい。それでいいか?」

「……いいですよ。不満はあるけど」

 嘘をついた。

 もっと王様と一緒にいられると思い込んでいた。

 よくよく考えれば、王様にそんな余裕などないのが分かっているクセに。

 拗ねている自分が恥ずかしい。

「ははは。じゃあな。アヤメ」

 そう言ってわたしの手をとり、キスをするレイク。

「え!?」

 立ち去っていくレイク。

「今の、なに……?」

 王族のやりとりにしては軽すぎない。

 あわあわしていると、目の前のマーヤがふっと笑みを零す。

「あのレイク様が、ね……」

「さて。回復したみたいだし、解散解散」

 ジルがそう言うとマーヤは手荷物を持ち立ち去っていく。

「ほら、アヤメ様も」

「分かったよ」

 わたしは立ち上がると、自分の部屋に向かう。


 夜十一時を回り、わたしはシャワールームに向かう。

 脂ぎった顔を洗い流す。

 石けんというものは角質を落とすにはちょうどいい。

 そもそもシャワーじたいが盗賊の頃にはなかった。

 こんなに気分がいいのはレイクのお陰だ。

 この生活を手放したくはない。

 身体の汗を流せば、気分はすっきり。

 わたしはその足で厨房に向かう。

「なにか、食べものは……」

「アヤメさま、何をやっているのですか?」

「ナベ。腹減ったの」

「なら、こちらで仕込みます。トマト丸かじりとかはやめてくださいよ」

 すでにトマトに齧り付いていた。

「やめてくださいよ!?」

「うまいトマトだ」

「ああ。もう。夜食作ります」

 ナベは慌てて調理器具を取り出す。

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