第9章 最後の儀式と狭間

 山奥の廃祠で“甘キ爪”の暗黒を間近に感じ、どうにか一時的な封印の可能性をつかんだ正木一徳(まさき かずのり)たち。しかし、あれはあくまで暫定的な対策にすぎず、本質的な問題解決とは程遠い。村の人々が幾多の犠牲を出しながら迎えた最終局面――そのなかで正木たちは、かつて先祖が行ったとされる“本来の封印儀式”を再現すべく準備を整えようとしていた。


 先日の廃祠での遭遇により、人間同士の対立や不信は一時休戦し、数人の有力者を含めて「もはや後がない」という共通認識が生まれている。これまで散逸していた古文書や家々に伝わる迷信の断片を総動員し、先人たちが“甘キ爪”を封じ込めたとされる一連の手順を復元しようとするのだ。前回までの封印まがいの行動とは違い、今度はより入念に段取りを固め、あらゆる可能性を見直して万全を期す。その中心に立つのは、皮肉にも一度は村から「災厄の元凶」とまで罵倒された正木だった。


 脳裏には、これまでの「詰めの甘さ」が呼び起こす数々の失敗が去来する。古文書の解読の遅れ、道具不足、そして仲間の犠牲――その全てに対して、正木は「もはや同じ轍を踏むわけにはいかない」と決意を固めていた。頭痛や手足のこわばりは相変わらずだが、これ以上“甘キ爪”に精神を喰われる前に決着をつけるしかない。


【 封印儀式の再挑戦 】


「まず、儀式に必要とされる道具を再確認しよう。獣皮を張った太鼓、木札、そして廃祠にある祭壇の石……」


 正木はノートとメモを手に、集まった村人や研究仲間に向けて説明を始める。彼らも情報を持ち寄り、さながら寄せ集めの委員会のように、真剣な表情で耳を傾けていた。かつて疎まれていた正木を中心に人が集まる光景は、この極限状態で人間同士がようやく協力し始めた証でもある。


「儀式の時間帯は夜半から夜明け前まで。その間、ある一定のリズムで太鼓を打ち鳴らし、村に伝わる祝詞(のりと)のような文言を唱える。廃祠の祭壇に石と札を据え、“甘キ爪”を再び封じ込める……こんな流れだ」


 これまでの断片情報を統合した儀式プランは、一見すると怪しげな呪術に近い。それでも、先祖たちが実際に何らかの方法で怪異を封印してきたという事実を考えれば、試してみる価値はある。しかも、今回は村中に隠されていた古道具や祭式具を総動員し、可能な限り昔のやり方を再現しようとしているのだ。段取りは煩雑だが、正木は意識的にひとつひとつを確認し、メンバーと共有するよう努めた。


「過去の失敗を繰り返すな。二度と“詰めの甘さ”で仲間を失いたくない――」


 正木が声を落として誓うように言うと、その場にいた村人や仲間もうなずき合う。実際、直前で人間同士が口論して破綻したり、道具が足りなかったりして儀式が中断されるなど、これまでに何度も「あと少し」という段階で失敗を繰り返してきた。村人の嫉妬や怨念、さらには“甘キ爪”に踊らされた結果でもある。今回は、そうした障壁を極力排除し、万全の形で儀式に臨もうというのだ。


 だが、このとき正木はまだ知らない。儀式の背後に潜む、衝撃的な真実がすぐそこまで姿を現そうとしていることを――。


【 衝撃的な真実 】


 夕方になり、研究所の望月が宿へ飛び込んできた。興奮なのか焦りなのか、顔中に汗を滲ませており、その手にはスマートフォンが握られている。どうやら外部との通信が一時的に回復し、新たなメールを受信したらしい。


「正木! 研究所から緊急の連絡だ。どうやら今回の“甘キ爪”は、俺たちが手掛けていた新技術と深く関わりがあるかもしれないって……」


 その言葉を聞いた瞬間、正木の胸がざわつく。あくまで怪異や伝承の問題だと思っていた“甘キ爪”が、研究所の技術に結びついているとはどういうことか? 望月が携帯の画面を正木に見せると、そこには断片的な報告が書かれていた。


「過去の実験データから推察するに、“甘キ爪”の発生と新薬・新技術の開発との間に相関が見られる可能性。要注意――」


 一読しても意味がよくわからず、脳が混乱する。どうやら研究所がひそかに進めていた“心因性デバイス”や“精神系薬品”の開発に、予想外の副作用が生じていたらしい。それが“異界の怪異”を引き寄せるトリガーになった可能性があるというのだ。


「まさか……俺が携わった研究プロジェクトが、こんな形で“甘キ爪”を呼び寄せたっていうのか……?」


 正木は動揺を隠せない。これまで、村で起きている惨劇は自分の“詰めの甘さ”が原因の一端とは感じていたが、まさか研究そのものが怪異を顕在化させていたとは。もしそれが事実なら、自分は文字通り“災厄”を村に運び込んだことになってしまう。


「多分、研究所も詳しい解析までは進んでないが、今回の怪異の性質と研究データを照合したところ、共鳴現象を示してる可能性があるって。おまえが村に入った時期ともだいたい一致するそうだ」


 望月も苦い表情で報告を続ける。どうやら、研究所が秘密裏に開発していたメンタルケア技術や、精神を活性化する新薬が、人の“心の甘さ”――つまり“弱さ”や“脆さ”を増幅させる形で、“甘キ爪”に付け入る隙を与えているかもしれないというのだ。研究が引き寄せた怪異……正木は足元が崩れ落ちるような絶望感に襲われた。


(俺が……本当に俺が呼んでしまったのか? それじゃあ、どんなに封印しても俺の存在が邪魔になるのか……?)


 思考が渦巻き、強烈な頭痛が再び襲ってくる。今夜の封印儀式を前に、最大級の精神ダメージだ。だが、正木は膝をつくまいと踏ん張り、「いや、今は考えても仕方ない。まずは儀式を成功させるしかない」と自分に言い聞かせる。


「儀式が成功すれば、“甘キ爪”が一時的でも封じられる。それで村を守ることができるなら、研究所の問題は後で……解決……」


 自分でも空虚な言い回しだと感じるが、今はそれしか道がない。村を出て外部と折衝する余裕もなく、研究所がどれほど尽力しようがこの怪異を確実に止める術を持たないのだから。一方で、これが分かれば分かるほど、正木にはさらなる重圧がのしかかる。もしかすると、封印儀式に挑む資格が自分にあるのか――自責の念が強まるばかりだった。


【 儀式の妨害 】


 夜、深い闇が落ちるころ、廃祠に隣接した広場には村の一部住民が集まっていた。これまで対立が続いていた有力者や若者も、今回ばかりは協力しなければ共倒れだと悟っている。山道の整備や崩落対策をしてきた人々も顔を出し、儀式のための太鼓や木札、火を照らす篝火の準備が進められた。


 祭壇の周囲では、正木がノートを何度も見返しながら段取りを口にする。かつて先祖が行ったとされる手順を参考に、太鼓を鳴らす順番や祝詞の言い回しを細かく指示する。加えて、前回のような道具不足や無秩序を避けるため、各自の役割を細かく割り振った。伴野は資材の搬入や警戒を担当し、望月は太鼓を含む祭具の管理を担当。ミキは医療対応と呪詞のサポートに回る。誰もが必死で心の乱れを抑えようとしていた。


「今回は絶対に途中で喧嘩したり、嫉妬したり、余計な口出しをしないようにしよう。みんなで一丸となって儀式を成功させるんだ」


 正木が静かに呼びかけると、村人たちもうなずき合う。ここに至るまで、どれだけの命が失われ、どれだけの恨みが渦巻いてきたことか。だが今は、それらを押し込めてでも協力しなければ、本当に誰も生き残れないかもしれない。


 しかし、ある男が突然声を上げた。これまで何度か衝突してきた人物で、正木を「疫病神」と罵倒したこともある。彼は俯きがちに腕を組みながら、低い声で言う。


「悪いが、俺はおまえをまだ信じきれない。研究所の技術とやらがこの怪異を呼んだなら、封印なんてやっても意味がないんじゃないのか」

「……」


 正木は言葉に詰まる。まさに自分自身もその疑問を抱えているからだ。封印が成功しても、研究所の発明が再び“甘キ爪”を引き寄せるかもしれない。そもそも正木がこの地を離れた途端、また怪異が顕在化する可能性もある。


「それでも……やるしかないんです。俺はこの村をこれ以上壊したくない。もし封印が完全に成功すれば、“甘キ爪”は再び眠りにつく……少なくとも、村を覆うこの恐怖から解放されるはずだ」


 ぎこちない答えだったが、男は何か言いかけて口をつぐんだ。彼ももうこれ以上の犠牲を出したくないのだろう。行き場のない憎悪や嫉妬が渦巻いても、今は共闘するしかない――そんな諦念が人々の間に走っている。


【 直前の兆し 】


 深夜0時が近づくと、霧のような薄い霞が広場を覆い始めた。篝火の炎が揺れ、太鼓を囲む村人たちは不安そうにざわつく。なぜこんな時間に霧が立つのか――まるで“甘キ爪”の胎動を示すかのようだ。正木は自分の研究所が怪異を呼び寄せた可能性に苦しみながらも、歯を食いしばって儀式の位置につく。


「各自、配置につけ……。叩き始めたら、俺が合図を出す。途中で妙な音や声がしても、決して離れないでくれ!」


 声を振り絞り、指示を飛ばす。ミキがノートを手に、祝詞を復唱するように準備し、望月は太鼓の前で革の張り具合を最終チェックしている。伴野や村の若者たちは、篝火を囲むように警戒態勢を取っており、何か異変があればすぐに知らせる構えだ。


 と、そのとき、広場の端からまたもや禍々しい気配が忍び寄る。誰も目視していないが、ブツリ……ザザ……という耳障りな音が闇に溶け込み、地面を這うように響いてくる。かつて洞窟や夜道で感じた“甘キ爪”の予兆――空間が軋むような、血の底から湧き上がるような不快感が胸を締めつけた。


「急げ……もう、あいつが来るぞ」


 正木は己を奮い立たせ、太鼓の周囲に立って祝詞を小声で唱え始める。ミキも涙目になりながら文言をリズムに合わせ、その一方で望月が太鼓をドンッと鳴らす。深く鈍い音が夜気を揺らし、村人たちの心拍をさらに高める。


【 本番と妨害 】


 儀式が始まってしばらく、最初はスムーズに進んでいるように思えた。太鼓のリズムと祝詞が合わさり、廃祠の祭壇に置かれた石や木札がわずかに光の反射を受けて浮き上がる。村人たちは互いを見回しながらも、極力集中を保ち、手順通りに事を運ぶ。それこそが、これまでの“詰めの甘さ”を克服しようとする正木の意志でもあった。


 しかし、霧が次第に濃くなるにつれ、人々の意識がどこか散漫になり始める。まるで“甘キ爪”が送り出す妨害電波のように、嫉妬や怨念が頭をもたげてくるのだ。誰かが「何で正木だけが主導してるんだ!」と心の中で思い、また別の者が「研究所の奴らがいなければこんな事態には……」と苛立つ。そうした黒い感情が、いつの間にか口に出る形で小さな口論を誘発する。


「おい、そっちの太鼓の叩き方がおかしいぞ!」

「黙れ、素人が勝手な口出しするな!」


 一人が声を荒らげれば、すぐ近くにいた者も言い返し、火花が散りそうになる。望月が必死に「落ち着け、手順通りだ!」と制止しても、村人同士の積年の恨みや不信感が拭いきれず、フツフツと表面化してきたのだ。


「待ってください、今は争ってる場合じゃない……!」


 ミキが悲痛な声を上げるが、混乱の火種はあちこちに点在している。しかも、このタイミングを見計らったかのように、遠くから金切り音のような笑い声が聞こえた気がした。まさに“甘キ爪”が人々の嫉妬や怨念を焚きつけているとしか思えない状況だ。


 正木は大声で「止めろ! その口論はやめろ!」と叫び、祝詞のリズムを必死に維持しようとするが、やがて太鼓のテンポも乱れ始める。望月が逆上した誰かに肩を掴まれているのか、音の刻み方がズレてきたのだ。さらに、伴野が「もう我慢できん!」という怒声を上げ、互いに掴み合う光景が広場の端で繰り広げられる。儀式の中心部では、正木が石と札を抱えて必死に耐えているものの、完全に崩壊寸前だ。


「くそっ……こんなことで……!」


 正木は手元の札を再度祭壇に当てようとするが、めまいで視界が二重にぶれ、しかも背後で暴れ始めた数名が突き飛ばし合いを始めた拍子に、篝火の一つが倒れてしまう。あたりに火の粉が散り、人々が悲鳴を上げる。もう目も当てられない混乱だ。「ほんの少しの油断」が、一瞬で全体のバランスを崩し、儀式を破綻に追い込む寸前にまで追い詰めていた。


(やめろ、やめてくれ……また俺のせいで失敗するのか?)


 何度「詰めの甘さ」で苦しめば良いのか――正木は歯を食いしばりながら頭を抱え、立ちすくむ。もはや呪文も祝詞も上の空、太鼓は失速し、封印のための要が崩壊しつつある。さらに、怨嗟の声があちこちで上がり、暗闇の向こうからは“甘キ爪”の気配が膨張しているようだ。


「だめだ、もう終わりだ……」


 誰かが弱音を吐くのが聞こえた。ここまで準備し、初めて本格的に挑むはずだった封印儀式が、あっさりと人間同士の葛藤によって破綻するのか――。その結末を想像するだけで、正木は眼の奥が真っ暗になる。


【 瀬戸際の抵抗 】


 だが、その絶望の淵で、ミキが再び力の限り声を張り上げた。小柄な身体で必死に正木の背中を叩き、「まだ終わっちゃだめ!」と叫ぶ。彼女も祭式具の一つである鈴を持ち、チリンチリンとリズムを刻み始めたのだ。この音に反応して望月が我に返り、再度太鼓を叩き出す。伴野も血走った目で掴んでいた相手を放し、歯を食いしばる。


「まだだ……まだ封印は終わっちゃいない……!」


 伴野の怒号が響き、村人たちも少しずつ乱闘をやめていく。火の粉が舞う中、正木はようやく踏みとどまって祭壇に向き合う。札を石に押し付け、祝詞のフレーズを噛み締めるようにして唱える。心は折れそうだが、ほんの少しの踏ん張りで未来が変わるかもしれないという一縷の望みにしがみつくのだ。


(頼む……これで“甘キ爪”を封印できれば……。俺の研究が引き寄せた呪いだとしても……)


 脳裏には、研究所のメールの文面がちらつく。自分が引き金を引いたとしても、今ここで封印を成功させることで、せめて村の人々をこれ以上危険に晒さずに済む――。体が悲鳴を上げる中、正木は“詰めの甘さ”を断ち切るべく、残された力を振り絞る。


 やがて、太鼓のリズムが再び安定し、ミキの鈴の音がそれを下支えする。伴野や村の人々が篝火を立て直し、囲むようにして奇妙な結界を形成する。そこに“甘キ爪”の黒い影がズルリとにじみ出すかのように見え、激しい圧をかけてくるが、まるで両者が綱引きをしているかのようでもある。人間の嫉妬や怨念が一瞬のうちに膨れ上がり、儀式を破綻させようとするか――それとも、一時的に和解した力が怪異を退けるか、そのせめぎ合いだ。


 この状態が続けば、いつまた誰かが暴発して火傷を負ったり、儀式を放り出したりしてもおかしくない。けれども今回ばかりは、辛うじてバランスが保たれていた。正木の“ほんの少しの油断”によって完全に潰えかけた封印の計画が、ギリギリのところで踏みとどまっている――そんな危うい状況が、深夜の闇に長く続いていく。


【 次なる狭間へ 】


 結果として、この夜の儀式は「未完成」なまま朝を迎えることになる。厳密には途中でトラブルが起きたせいで、最後の仕上げに当たる工程が済まないまま夜が明け、太鼓と祝詞の持続が断たれてしまったのだ。空が白んだ際、祭壇に載せた石や木札には微かな歪みが走り、“甘キ爪”の影が跡形もなく消えていたようにも見えるが、はたして封印は成功したのかどうか――答えはわからない。


「封印しきれたとは言いがたい。しかし、“甘キ爪”が村を覆う暗闇が減った気がする……」


 伴野が見回すと、狂乱のように荒れ狂っていた村の人々も、今は呆然と立ち尽くすだけだった。夜の混沌は確かに薄まっているが、真の勝利かどうかは不透明だ。むしろ「儀式が成功しかけたのに、また詰めの甘さで失敗寸前だった」という後味の悪さが、正木たちの胸に重くのしかかる。


「まだだ……俺たちはまだ、完遂していない。結局、朝まで持たなかったんだから……」


 正木は俯いて唇を噛む。これ以上の犠牲を出さずに済むなら万々歳だが、“甘キ爪”が完全に消滅したわけではないかもしれない。研究所の技術が怪異を呼び寄せる根本的な仕組みを断ち切らない限り、いつまた再発するかわからないのだ。


 しかし、その一方で一定の成果を感じている者もいた。夜半の危機的な瞬間を乗り越え、人々がかろうじて協力し合った事実――それは村の現状を転換させる大きな一歩となるはずだ。仲間を失い、家を焼かれ、対立や殺意まで剥き出しだった村人たちが、初めて「共通の敵」に対して最低限の連帯を示したのである。


「次こそは……最後までやり遂げられるかもしれない」


 誰かが小さく呟く。炎の後始末をする者、血走った目で石を見守る者……その場にいる全員が、長い夜の緊迫から解放されて、呆然と空を見上げていた。朝陽は薄雲の向こうに隠れたままだが、光はやがて射してくるだろう。村は今、新たな狭間に立たされている――怪異に勝てたのか、それとも次の地獄が待っているのか。


「しばらく様子を見よう。それで“甘キ爪”が大人しくなったなら、儀式はある程度成功だ。もし出現が続くようなら……また改めて挑まなきゃならない」


 正木は深い吐息をつきながらそう言った。これまでのトラブルと失敗が頭をちらつくが、もう逃げる選択肢はない。研究所と話し合い、怪異を根本的に断つ策を模索する必要もある。何より、この村での惨劇を終わらせるために、自分自身が“詰めの甘さ”を完全に克服しなければならない――それが痛いほど突き刺さる。確かに今夜もまた、わずかな油断で儀式が完遂には至らなかったのだ。


(もう少しで……全てを解放できるかもしれない。あるいは、さらに深い闇に呑まれるのか……)


 沸き上がる不安と希望がないまぜになった感情を抱きつつ、正木は祭壇の石に手を伸ばす。そこには微かな人間の体温のような暖かさが残っており、あの黒い影が完全に逃げ去った形跡がある。結果がどう出るかはまだわからない。それでも、この儀式を経て、村と自分自身が最後の闘いへ進むための“狭間”へ踏み込んだのは間違いない――そんな確信めいた感触が、曇天の朝に揺れる篝火の名残と共に浮かび上がっていた。


 ──こうして、未完の封印が生んだ不完全な夜明けは、次なる最終決戦の序曲となる。村人の嫉妬や怨念は完全には拭い去られず、研究所と“甘キ爪”の因果関係も決着していない。しかし、正木が「詰めの甘さ」から成長しようとする意志と、人々のわずかな連帯によって、いよいよ物語は最後の舞台へと向かおうとしていた。次に挑むときこそ、本当の儀式が完成するか――あるいは、この村は怪異に喰い尽くされ、誰も報われない結末を迎えるのか…。

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