episode 4 ツゲの木陰で延長戦
へっ?
廊下を振り返った私は、職員室のほうから堂々と姿を現した横顔にのどがひくっとなった。
「う、宇未くん……」
間違いない、曽根宇未。彼を発見した私は身体の上から下までぽっとなるのを感じた。慌てて小さく深呼吸し、急ぎ上履きに戻して目の前を通り過ぎた彼を追いかける。何だ、いつからかわからないけど反則技の職員室に隠れていたとは。
いやいや、「かくれんぼ同好会」のルールは知らないし。
それより今の宇未くん、いったいどういう状況なのだろう。薄暗い廊下で彼の背中に周りを気にする様子はなく、〝かくれんぼ〟は終わった可能性が高いか。真後ろにいる私は胸をばくばくさせながらその背中に近づき――、いきなり彼が右に折れた。
ひええっ、渡り廊下?
私はとっさにばっと左に跳ねてぎりぎり見つからず、上の階と違って外のにおいに幻惑される一階の渡り廊下に向かう。そして彼が冷たく痛いコンクリートに足を踏み入れたとき、私は自分を呼び寄せる言葉にならない声を聞いた。
今のけらけらけらって、蛙かなあ?
私は宇未くんから目をそらして外の気配をうかがう。渡り廊下にさわやかな風が吹き抜け、流された彼がこちらを振り返った。
「おお、彩……、あっ」
話しかけていい彼は私に気づいた一瞬ののちに私ではない〝何か〟を見て顔を引きつらせる。絶交されたくない私は口からあふれる声を手で抑え、彼の健康的な右腕に白い夏服の袖ごとつかまれた。
えっ、な、何?
そのまま宇未くんに渡り廊下から引きずり出され、意味のわからない私も一緒にツゲの木陰にしゃがみ込むことに。彼はまだ〝かくれんぼ〟中なのだろうか。そばで鳴いているらしいけらけらけらが大きくなっていく。
「――ったく、『同好会』の延長戦かよ」
手を離した彼が吐き捨てた言葉を聞き、今はもう〝かくれんぼ〟じゃないなら「どうして隠れたの?」と、私は爆発しそうな心臓で話しかけられないきまりを破った。
すぐには反応がなく、やはり絶交かと落胆したら宇未くんが「羽田がいる」と答えてくれる。しかも私は、渡り廊下を歩くその愛美さんの思いつめた横顔に気がついた。
両方とも発見、さあどうする?
もちろん会わせはしない、会わせるもんか。私はしゃがんだまま彼女を見送った。
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