episode 3 恋を破壊する女
恐ろしい北棟三階の各教室を掃除用具入れからカーテンの向こう、ベランダに流し目の三年生の陰まで身を隠せそうな場所をひやひや確認し終えた私は、蒼い窓に囲まれた二階の渡り廊下に戻って再び昨日のやり取りを思い出していた。私は宇未くんに絶交を警告されてしまったから、彼に安易に声はかけられない。愛美さんが考えている告白どころか話しかけられもしないのだ。
「それはだから……、わかってはいるけど」
そうだよね、私は状況を理解しているだけで、〝かくれんぼ〟中の彼を見つけたらどうするかという一番重要なところを決めていない。絶交を警告されて話しかけられない、ならば違うやり方が必要だった。
「やり方――、変える?」
ぶつぶつつぶやく私は自分の声が消えた瞬間に立ち止まり、沈黙の後ろを振り返って息を止める。誰もいないってば、何をおびえているのだろう私は。背中が気配を浴びてちりちりしたから? そんなの錯覚だよ。
私は落ち着きを失った
勝手な妄想でうっとりしかける私、
そう、違うやり方。私は探す相手を宇未くんから愛美さんに替えようと決めた。ひとたび学校を出たら二人とも電話が使えるし誕生日は今日だけだけど、私はそんなもので本気の告白をする奴はいないと信じたい。特に子供じみた「同好会」活動にはまる彼が携帯電話嫌いなのは、隣のクラスでも彼に恋する女なら知っているはず。彼女は三味線のお
そして私が絶交されるのも今日だけだから、明日になれば私も告白できるのだ。誰よりも早く、朝一番に駆けつけてあげる。私はもう告白まで覚悟していた。
私は我がD組を含む二年生の教室を高速で見て回った。宇未くんと違って愛美さんは隠れていないから、素早く移動して早く見つけたい。考えてみれば積極的に探してないほうも探していることにはなるわけで、やり方を変えて一番大きな変化は探し方だった。
「でも……、いない。どっちもいない」
視線を落として歩く私は、「あっ」と声をあげて立ちすくんだ。
まさか私の知らないうちに二人は出会って、プレゼント作戦まですませちゃった? しかも成功? そんな、だって私の知る宇未くんはしんが強くて、恋愛小説みたいなほんぽうな甘さには屈しないじゃん。いや絶対大丈夫なら私も心配してないわけだし、誕生日プレゼントつきで、今日は受け取らせるだけで外堀からじわじわ埋めていく作戦もあるから、やりようによっては硬派な彼も揺らぐかもしれない。最後に中学生らしからぬお色気作戦まで考えたらふるっと寒気がした。
愛美さんの告白が起こした二回の騒動を思い出す。彼女はじゃまに入ったライバルの女の子ともめにもめ、髪のつかみ合いや頬の引っ張り合いに発展した上で二回とも誰一人の恋も成就しなかった。より最近のほうは、男子と両想いの子が参戦していたにもかかわらずである。彼女は恋を破壊する女でもあった。
ああ、その光景を廊下から観察していた罰が今の私に降りそそいでいるのだろうか。南棟に移ってにぎやかな一階に下りてきた私は、いくらなんでも職員室にはいないよねとそちらは探さず、今日何度目かの昇降口で靴に履き替えていた。
ところが、ふいにあの「きゅぎゅぎゅっ」、上履きと廊下の間で大好きな人が奏でる音色が耳に入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます