第3話 兎でも務まる仕事では”上等な”兎でいられない

 ですが、美しくなった兎は気づきます。お財布がとても軽くなったことに。これでは、新しい耳飾りも上等な薬液も買えません。


 とりあえず、毎日食べる人参を日に3本から1本に減らしてみますが、人参の値段なんてたかが知れています。なので、人参を減らしたところでお金の問題が解決するわけではありません。


 当然、真面目に努力してきた兎は、働いてお金を得ようと仕事を探します。


 でも、兎向け、”兎でもできる”とされている仕事は、どれも、お給料がよくありません。


 兎にできる仕事はない、とオオカミ達は言うのです。なぜなら、兎は馬鹿だからだそうだからです。馬鹿では立派な仕事はできない、馬鹿では利益を出せる仕事はできない、馬鹿は数字を理解できない、数字を理解できない馬鹿にどうして重要な仕事や役職を任せられようか、そうオオカミ達は言うのです。


 しかし、それもそうかも知れません。兎は自分が馬鹿だと思っていますし、実際、数字は難しくて理解できません。兎は数字を理解しなくていい、理解できない方がいい兎だと言われてきたので、兎が数字を理解できないのは悪いことではないはずです。ですから、数字を理解する必要のある立派な仕事、お給料のいい仕事は諦めるより他はありません。


 ですが、困りました。このままでは、”上等な”兎でいることはできません。新しい耳飾りも上等な薬液も買えないからです。今さら、”普通の”兎に戻ることはできません。そんなの残酷すぎます。かつての”醜い”自分に、見下されて当然な”正しくない”存在に戻れ、だなんて。そんなの残酷すぎます。そんなことするぐらいなら死んだ方がましです。


 どうしようと悩んでいると、派手な触れ込み看板に踊る謳い文句が兎のかわいいお目々に飛びこんできました。


『兎にしかできない仕事:【賃金】人参10,000本分の給与【場所】オオカミの饗宴きょうえん場』


 オオカミ達に食べられるお仕事です。そんなこと、怖いし嫌に決まっています。母兎を悲しませるのも分かっています。ですが、どうしても、お金が必要です。


 - 賢い兎のアドバイス

 自分の置かれた状況に絶望していたおりに、賢い兎がアドバイスをしてくれました。


「兎の身体は、あくまでも、兎の身体であって、兎そのものではありません。兎の精神、つまり、”わたしたち”自身とは別物です。ですから、”わたしたち”には、”わたしたち”の身体を自由にする権利があります」


 兎は救われた気持ちになりました。そうです。自分には自分の身体を差し出して、たくさんのお金を貰う権利がある。そして、それは悪いことではない。それを悪いことだと決めつけてガミガミ吠えるオオカミや口うるさい歳のいった兎が嫉妬深く、時代遅れの愚か者にすぎないのだ、と。兎は救われた気持ちになったのです。

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