2章 うみねこお父さんと娘

2-1 黒服の二人組①


 –––––––闇だ。何もない。


 私の魂は現世に大きな怨みを残した。それゆえになのかもしれない。長い間、私の意識は暗闇の中を行くあてもなくトボトボと一人で歩み、深い深い闇の底を彷徨っていたような気がする。

 その長い放浪の中で私は、ずっと心にモヤがかかっているような感覚で、視界も定まらずにいた。

 暗闇の世界の中で、私の存在というものは頼りなく漠然としており、自分が何処にいるのか何処に向かっているのかも分からない。歩めば歩むほど道は遠のき、自分が誰だたっかも徐々に分からなくなっていた。

 誰に迎えられることもなく、ずっと孤独で見捨てられたような気持ちだった。

 それでも朧げな意識の中で、ただひたすらずっと愚痴だけは思っており、せっかく真面目に人生をやり切ったのにこれではあんまりだと思っていた。とにかくガッカリしていた。

 そうして私は、–––––ずっと、ずっと、トボトボと暗闇の中を歩いていた。

 だが、しかし、


 –––––––––––‥‥ああ、光だ。


 そこへ光が差し込んできたのだ。ああ、私にもようやくお迎えが来たのだと悟った。この導く光がなかったのなら私はあのまま深い闇の底へ沈んでいった事だろう。恐らく私という存在は無くなり、漠然とした悲しみを抱いたまま、あのまま闇と一体になっていたのかもしれない。



          ⚪︎



「うみねこ様、おめでとございます!」

「ヤッタネ。ウミちゃん、おめでとー⭐️」


 光に導かれ、その明かりに向かって進んでゆくと、気づけば空の上に出ていた。

 そこは不思議な場所であった。

 周囲には雲が流れており、眼下には地上があるのだが、体は落ちていかない。見えない足場があるからだ。ふよふよとした透明の板の上に立っているような感覚だった。


「申し訳ありません。ちょっと手違いがあったようでして、遅れました」

「ね。なんでだろうねー⭐️」

「それででして‥‥。出発もこんな場所になってしまいました。探し出すのに見当たらなくて、困ってしまいました」

「困った困った⭐️」


 なんだこの胡散臭い二人組は?

 目の前には黒いスーツを着た若い男女がいる。


「さて、うみねこ様。早速ですが、あなたの人生は–––––」


 などと意味の分からない話を続けていた男は、さらに訳の分からんことをやり始めた。言葉を区切り、勿体ぶって溜めを作っている。様子から次に来るのはサプライズ的な何かであろうと察せられる。


「ジャカジャカジャンジャン、ジャーン⭐️」


 女の方もその演出に合わせて何やらはしゃいでいる。


「–––––合格でございまーす!」

「ヤッタネ、ウミちゃん。合格だよ〜⭐️」


 何が合格だ。

 誰がウミちゃんじゃい。


「じゃあ略式ではありますが‥‥」

「行っちゃいますか。ウミちゃん⭐️」


 黒服の二人は満面の笑顔でこのようなことを口ずさみ出した。


「パンパカパーン」

「パンパカパッパッパーーン〜⭐️」


 突然現れて、こちらが唖然としているにも関わらず歌い出しているアホな二人組は、背中から今にも翼でも生やしそうなテンションであったのだが、


「‥‥‥おや?」

「‥‥‥あれー?⭐️」


 何か予定外のことでも起こったのだろう。二人は営業スマイルを崩さないまま、ヒソヒソと相談し出した。


「これっておかしいですよね?」

「ね、上に確認しないといけない感じ〜?⭐️」


 ヒソヒソとやっていた二人はこちらをチラリと見る。

 私が訝しげに見つめ返すと、ニッコリと笑いかけてくる。

 そうしてまたさらに二人はヒソヒソとやり出して、話がついたのか私にこう問いかけてくる。


「あのー、うみねこ様。‥もしかして死ぬ間際に何かありましたか?」


 私はフッと自嘲の笑みを浮かべた。

 そうして心の中でこう返答した。


 ありましたとも。





 




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