回想 後
中学ではゲームもスマホもテレビも無いせいでどんな話題にもついていくことが出来ず、仲間を作ることは出来なかった。
修学旅行に行けなかったことも、行ったところで苦痛しか味わえないからよかったと思っているくらいだ。
暇な時間には運動しか出来ないため、バスケットボール部では一番の活躍をしていたのに、部費を払えなかったせいで顧問に試合に出してもらえなくなった。
どれだけ点数を決めても、誰も喜ばず、鋭い視線を飛ばされる毎日。
妹・史に関しては、中二の夏に人生で初めての彼氏を作り、半年ほど、恋人との日々を楽しんでいた。
それでも、俺のことをずっと考えて、母の手助けも欠かさない。
時々、教師に褒められたという話を母に聞かせて、母を笑顔にさせていた。
ちょっとした人間不信になって高校に進んだ。
が、ほとんど変わらなかった。……変われなかった。
なぜか一度、バレー部の女子と付き合ったことはあったが、一週間も経てば関係は自然に消滅していて、その女子とも話すことは無くなっていた。
その中で、数人出来た友達と、一時間かけて駅に行き、そこから一時間かけて電車で都会に行った。
そこは実にキラキラしていて、様々なことが飛び交い、人々は活力に満ち溢れていた。
支離滅裂で本当かも分からない物語を熱心に布教するジジババばかりの村とは、まるで別世界だった。
そこを歩いている時に、サングラスをかけた「スカウト」に、芸能事務所に入ってアイドルを目指さないか、と言われた。
見るだけで反吐が出て、いくら睨みつけてもクサい臭いのする菓子を押し付けてくる老害どもに、アイドルになれると言われ続けてきた。
俺は、大都会の真ん中でそう言われて浮き付き、ダンスの練習をしたり、もらった用品でスキンケアに取り組んだりした。
結果、周囲からはますます疎まれ、僅かにいた友達も離れていった。
近所から、歌がうるさくて非常に不愉快だというクレームが入ったりすることもあった。
ほとんど進歩が無いまま、高校三年になり、誰も知らないような大学を受けた。
合格の報告が届いたその二日後に、母が亡くなった。
そこから、俺と高校生の史との二人の生活が始まった。
何度か挑戦しようとしてもろくにこなすことが出来ず、むしろ史の負担を増やすだけだったため、家庭のことは全て史がした。
「いつも、何も出来なくてごめん」
そう謝る俺に、史はいつも、見るだけで心が温かくなるような笑顔でこう言って、背中を叩いてくれた。
「そんなの、兄ちゃんはいてくれてるだけで私の力になってるんだから、何も出来ないことないよ」
大学四年間を過ごし、俺は隣町の電気会社に就職した。
そこで、少し食い違ったりして、俺は、妹を殺した。殺された。
今は、社員寮で、食事はコンビニ、洗濯はコインランドリーという生活を送っている。
そして、俺は妹への罪滅ぼしをするために、憎き「末」の最高神で唯一の神である、霊場刑部の遺骨を集めている。
***
彼女らが店を出たところで、俺もすっかりぬるくなったコーヒーを目を瞑って飲み干し、店を出る。
そのまま、すぐ近くにある駅へ向かった。
「すみませーん、この子探してまーす」
「何か目撃情報などありましたらお願いします」
と、駅前の交番の前で、白い半袖Tシャツに黒い短パンを着た男、白のハイネックのニットを着た女が、大きな声で呼びかけていた。
――ん?
その、半袖半ズボンのよく日焼けしたごつい男は、昨日出会ったあの男。……今、その男が起こしたことでモヤモヤさせているその男だった。
「ウラベマスミです、何か目撃情報などありましたらお願いします!」
なんとなく、彼らが見えないように遠回りをしながら、駅を目指す。
妻であろう女が持つポスターには、こうあった。
【情報求ム
今朝失踪
前日に家出をしていました。しかし、家に帰ってきて家族仲直りして、団らんの時間を過ごしていたその後の失踪で、何かあるのではないかと疑っています。
大切な一人娘なので、心当たりのある方は
――まさか、刑部が彼女を“永苦の間”に連れ去ったんじゃないだろうな。
しかし、昨日、呪文を唱えている。
――単なる家出ならいいけど。
スマホをふと開ける。
電車の時間が迫り、俺は強烈なざわめきを胸に抑え込んで、駅へ向かって走った。
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