#5「吟遊詩人」
「お前の旅の目的は?」
木々のざわめきが耳に入る。イスメルさんは顔色一つ変えずにそう聞いてくる。それが威圧するような感じがして、少し怖い。左右に視点をやり、怖ず怖ずとイスメルさんを正面に捉える。
「……実は私、この世界に色を取り戻したくて……」
「色を? お前が? どうやって?」
「そ、それは……色を奪った魔物を、倒して……」
色を奪った魔物が今どこにいて何をしているのか。宛がない。色を奪うって、その目的は一体何なんだろう。
「そうじゃない。火魔法のみでどうやって魔物を倒すのかと聞いている」
「そ、それは……」
これについては無謀と言う他ない。考えなしに進んでしまった私の蒔いた種だ。これで仲間になってくれというのは、正直虫のいい話だとは思う。けれど、それでも、やってみないよりはやってみる方が良いと思ったから。
「お願いします! イスメルさん。無理は承知なんです。一人でも多く仲間が」
言い終わる前に、イスメルさんが口を開いた。
「わかった、同行しよう」
「……え?」
今、同行しようって言ってくれた? 本当に?
「お前を見ているとそそっかしくて敵わん。お目付け役として旅に同行する。それに俺は見ての通り吟遊詩人。元より行く宛なんてない」
その表情は一切変わらない。吟遊詩人というのは、饒舌で感情豊かなイメージがあったので、意外という他ない。私の思い描いていた吟遊詩人のイメージが、崩れていく。
「……本当にいいんですか?」
「ああ」
こうして、吟遊詩人のイスメルさんが私に同行してくれることになった。
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