第3話 姿なき悪意と嘲笑
署は慌ただしく先輩刑事たちがあちこちを走り回っていた。
「なんだ。やけに騒々しいな」
「なにかあったんでしょうか…」
「おい。そこのお前。なにがあったんだ」
塚田さんは慌ただしく走ってる人の襟首を掴んで、強引に引き留め事情を聞く。
「なにかじゃないですよ。ほら、さっき通報があった主婦殺し。
アレの犯人が自首してきたんです」
「なんだと!?」
「しかも、犯人の身柄を検察に明け渡すということで調書作成とかでいまバタバタしてるんですよ」
「んなバカなことがあるか! 逮捕して48時間はこっちの管轄だ。
それを無視して検察に明け渡すなんてなにを考えてる!!」
「僕に怒鳴らないでください。決めたのは…なんですから」
そう言って天井を指差す。
彼が伝えようとしているのが上層部を表しているというのは僕にも分かった。
「で、取り調べは誰が担当してんだ」
「そんなことまで分かりませんよ! 急に自首してきたと思ったら身柄を明け渡すから準備しろって言われてこっちも忙しいんです。もう、いいですか」
そう言ってこちらの返事を聞く前に足早に彼は去っていった。
目の前を先輩刑事たちが右へ左へ、と走っていく様子を僕はただ黙って見守っていた。言葉を発そうにも経験不足の僕は黙っているのが正しいと思ったからだ。
「どうする」
「え?」
質問の意図が分からず塚田さんの顔へ視線を送ると、塚田さんは曇りのない真っすぐな目で僕を見ていた。
その瞳はなにかを伝えようとしてるのだろうがそれ以上のことは分からなかった。
「……ま、好きにしろ。俺も好きにやる」
しばらく見続けていると思ったらそう残念そうに言うと塚田さんは署の入り口へ踵を返した。
なにを伝えたかったのか答えてくれてもいいのにと不満を抱いていると先輩刑事の背中がどんどん小さくなっていく。
「……あー、もう!」
困った先輩を持つと苦労するとはまさにこのことだと思う。
担当事件が解決したことを喜ぶでもなく、険しい顔でどこへ行くつもりだ。
ほとほと面倒な先輩とは思うが彼に付いていかなければならない。
なぜかは分からないが直感めいたものが胸の中にあった。
そうと決まれば口では文句を言いながらも自然と足は彼のもとへ向かっていた。
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