第51話 プライドを賭けた魔法勝負

 俺は上から見下ろす、クソッたれの神を睨みつけた。


「へぇ。井戸のカエルの邪神が最高神に勝つ?聞いたことないなぁ」

「お前さ。井戸の中の蛙って言葉、知らないだろ」

「あ?それはお前への貶し言葉だろ‼」

「で?魔法の力は戻してくれた?」


 念の為に聞いてみるが…


「残念。今の言葉は俺を怒らせた。だから止めた」

「やっぱお前がカエルじゃん」

「煩い。もう、飽きたんだよ」


 傷口を広げていくタイプの神、中身人間。

 だけどプライドが高いんだから、これは寄り筋だ。


「飽き性だな。新世界の神になったらやることなくて飽きそう」

「てめぇには関係な」

「前の世界で卑怯な勝ち方したことを無限に考えてそー。俺の卑怯者!って死にセリフが五億年以上刺さりそう。卑怯な神が創った世界って思ってそ」


 散々相手の性格を否定したけど、俺も実は俺もそっち側だったり。


「全部無くなるって言ってんだろ」

「全部覚えてるじゃん。ミジンコ時代から下克上して、最後は卑怯者ワラ」

「マジでムカつく。今からぶっ殺す」


 本当に瞬殺されそうだ。だから、ここで将棋で言う「詰めろ」の一手をフワッと置いておく。


「仕方ない。外の世界の神も見てるから、俺も頑張るか」

「…って‼いや、違って。魔法の使用くらい認めてやるつもりだったんだよ。俺様は優しいからな‼」


 そう。ガバガバ世界、異世界転生がある以上。

 リューズも当然知っている。この手は流石に受けなければならない。


「流石は最高神。カエルの神にもチャンスを与えてくださるなんて、最っ高じゃん。なら早速、フォーセリアとドレッケンの回路展開!この場のx軸を0として、半径200kmにフィールドを展開!」

「ちょっと待てよ‼てめぇこそ卑怯なことすんな‼」

「弱い方が先手って決まってんだろ」


 それに地上を保護するためのバトルフィールドづくりだ。

 この状況には彼らのお子供さんも。


「これで集まってきた人たちは大丈夫そうです」

「へぇ。こんなことも出来るんだな」

「邪神ってのは分かってるけど、ちゃんと考えてるじゃない」


 大喜び。それにリューズは優秀な子供を誇るべきだ。


「流石はリューズ様。アルテナス様がお守りくださったとお喜びになると思います」

「ちょ、シュウ」

「だろ?先にやられたけど、先手だったら俺がやってたからな。だから遠慮なく…。んで浅はかなカエルには、これだろ‼アルテナスソード‼」


 リューズからの高速の寄せ。床から最高の剣を取り出して、そこに最高神の加護を乗せる。

 だが、ここで。


「ヘスティーヌ、フィーゼオメイズ。更にイブゴートレイン」

「そんなの効くかよ。黄泉の番人はアルテナスで無効化。あとは風と炎の雨。俺のレベルを舐めるな‼押しとおる‼」


 今度こそ、神々の戦いだった。

 そして、一気に寄せたリューズは


「アチっ‼何か仕込みやがった。サーファコート‼」

「あ…。それは…」


 ボン‼


「なんだぁ?更に仕込んでやがった。見てるか、神。この邪神、卑怯なことばっかすんぞ!完全に悪魔だからな」


 言葉選びが稚拙…。なんでかと俺は首を傾げる。

 それに今のは


「何?」

「レベルが上がったからかな。何となく見えたけど、風の動きが妙だった」

「多分、邪神レイは炎の中にフォーセリア石を混ぜてたと思います」

「そっか氷が一気に蒸発したんだ!」

「その為に風で囲いを作ってたってこと?」

「で、でも。流石はリューズ様です。きっちり反応してます」

「うん。そうだね」

「当たり前な事を言うな‼」


 でも、俺はまだ首を傾げたままだった。

 確かに効いていないけど


「それなら次はこっちから——」


 すると、リューズはきっちりと身構える。

 今まで、そんなことしなかったのに。


「単純にいこう。イブゴート、レイザームの陣。ドレッケンの剣。それからやっぱフィーゼオ‼」


 とても戦いやすい。

 凄く戦いやすい。

 そのまま一直線で


「後の千って言葉、お前は知らないようだな。フォーセリア、俺を守れ‼ドレッケン、サーファ、それからフィーゼオ‼死の雨を降らせ‼」


 そして俺は半眼で呟く。


「後の先、な。日本語から略されてるからややこしいけど」

「揚げ足を取るな‼貴様の剣など…」

「フォーセリア。そのまま重力回路」

「なに?」

「で、俺は流石に喰らうか…。神が降らすトンデモ雨に逃げ場はない」


 だから、流石に体がズタズタになる。

 でも、その代わり身の守りの筈のフォーセリアだが、この世界の重力を担当している回路を持っている。


「ぐ…は…。重いから、離れろフォーセリア‼」


 当然、圧し潰される。

 これは両者痛み分けだが…


『トゥルルルルルルルンッ‼』


 あっちにはこれがある。


「流石に厄介だな。ま、人間の体に降りてるのは救いか。いや、そうじゃないと召喚組を監視できないし、手が出せないもんな。やっぱ、それが正解だ」

「成程。そういうことだったんだね」

「気付かせてくれたのは、ラプツェルだけど」

「貴様らぁあああ。口をきくな‼これからだ。今までは手抜いていたんだよ」


 プライドは流石。

 ただ、おかしい。俺もおかしいんだろうけど。


「手抜いてたなら、こっち王手の本気で行くっきゃないか」


 アルテナスの加護があるから、中途半端な攻めではダメ。

 しっかりと、決めきる必要があった。

 これが圧倒的にフリだが、今考えられる最強の布陣を考える。


 それが…ちょっと楽しい。


「ヘスティーヌ、ドレッケン。フィーゼオメイズにスカディサーキット併用。更にリバルーズとフォーセリアメイズは下部展開‼」

「ちょっと待て。俺がまだ‼サーファ、フォーセリア。俺をとにかく守れ」

「なら、上部にイブゴート追加。これで全部は受からんだろ‼」

「甘い‼」


『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』


「たった二つ。これで迎えうつ。全部耐えきってやる‼」

「うわ、汚ぇぇえええええ。これが神のやることかよ!」

「神なんだよ‼」


 人間の体に神が降りている、邪神が降りている状況は変わらない。

 その人間部分を底上げるされると、


 ドンドンドンドンドンドン‼


 作ったバトルフィールドが激しく揺れる。


 だけど、ベースが上がってしまえば、相性なんて関係なく、HPは削れるだろうが耐えきれる。

 しかも全回復だ。


「ふっふっふっふ。ぜーんぶ耐えきった。惜しかったなぁ。地面がなきゃ、フィーゼオ大陸の崩壊も楽しめたのは勿体ないが、やり方は分かった」

「その為のバトルフィールドだよ。でも、これは流石に…」


 空中の魔素を使うと言っても、体内でマナ変換したりとマナゲージを使う。

 しかも、最初に受けた攻撃も、超回復は難しい。

 そちらに意識を向けると攻めが続かない。


 正直言って、今ので決めきりたかった。

 

 その表情は流石に読み取られてしまう。


「俺はいつでも回復可能。だったら、全火力。最大の力で跡形もなく消してやる。しかも、これでどうだ」


 そしてリューズは空中を舞った。

 真上から真下に。全エネルギーだからバトルフィールドも支えきれない。


「ゲームじゃなくて、漫画アニメの方か?」

「そういう話も聞いたな。結局は暇つぶし。でも、もう飽きたんだよ。アルテナスの名の下に五大神‼そしてその他の神も力をかせ‼全ての神の力を構築する」


 天空にとんでもない魔力が集中していく。

 あんなところで作ったら、アルテナスにも流石に見えているだろう。


「流石に…、頂点には勝てないか…」


 みんな、そう思っただろうか。

 みんな、諦めただろうか。


 でも、本当に。小さく、小さく小さく。一滴の水滴を垂らしたような波紋が、俺の鼓膜を揺らした。


「エステリア様です」


 そして小さく頷く。

 敬虔なる少女。彼女がここで嘘を吐くだろうか。

 俺は邪神だ。きっと悪魔に見えている。でも


エステリア・サーキット神々のトリックスター


 上空は太陽を思わせる特大のエネルギー。

 酸いも甘いも、熱いも冷たいも全部の魔力を終結させていた。


 そこに、一つの光が俺の内側から立ち昇る。


 すると…


「な、な、なんだ…、これは…」


 俺も目を奪われた。


「神代の時代、エスエリア様のせいで世界がぐちゃぐちゃになったって、千年前に読んだ古い本に書いてました」

「いいのか?」

「…はい。私にはあちらのほうが邪神に見えます」

「そうだね。僕たちは」

「あぁ、攻撃を受け切るのが俺の仕事だ」

「ケンヤ。いいこと言うじゃん。こうなったら地上を守りましょ」


 上空ではなく、敵に回った筈の味方の行動に目を奪われた。


 そして、


 本当に世界を無に帰すほどの爆発が起きた。


「やめろ。暴れるな。このままじゃ、俺がぁぁあぁああああ」


 その殆どは上空で爆発して、バトルフィールドにいた元・仲間…、いや仲間たちが必死に受ける。


「ロゼッタ。無理するなよ」

「ちょっと、アンタ」


 ケンヤなんてロゼッタを守りながら受けている。


「シュウ君」

「ユリ」


 この二人は手を繋いで


 そして、四人が声を揃えて言う。


「勝った…」


 で、俺は目を剥いた。


「って‼それ、フラフだから‼」

「いや、でも流石に」

「大丈夫だって。これで悪いヤツを倒せた」

「アタシ、帰ったら、結婚しようかな」

「って、態とじゃん‼」

「ううん。…ケンヤと」

「んじゃ、俺も。俺、帰ったらロゼッタと結婚するんだ」

「だから、完全にフラグだっての‼」


 そして真っ黒になった何かが降りてくる。


 見上げながら、


「え?本当にやった…か」


 とついに俺も。


 全ての魔力をあつめて、暴走。流石にこれはフラグなんて絶対に——



 『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』『トゥルルルルルルルンッ‼』


 いやいや。やっぱフラグは立てちゃダメってことだ。


 周囲にはドゥルルルルルルルルルルルルルンという音が響く。


 天には彼に屈服したアルテナスがいるんだから、当たり前のことだった。



 そして、今度こそ。



 最後になるんだろう。全知全能の神がその怒りで滅ぼすのだろう。



 

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