第50話 神を倒す糸口
——何か忘れてない?
いや、そんなことよりも白髪、オッドアイ、厨二病魔法剣士だ。
「お前、何を考えてる。いくら騙されやすいからって今の話で誰も味方になると思うなよ?」
「へぇ?そうかなぁ。いやいや、実は困ったこともあったんだよ?王家に邪神が生まれるって、さ。まぁ?最後の大陸だし?最後の瞬間だし?それくらいのことは起きるかぁ」
こいつだけはずっと余裕。ずっと後方腕組みで見ていただけ。
と思えば、あっさりと王の首を斬る。
「計画の為に仕方なく、王を巻き込んだんだよ。頭は悪いし、素行は悪いしで…、こんなことなら早く殺しとくべきだったかなぁ」
コイツの話は破綻している。
転生とか召喚とか、その他のことも。
ただの人間に出来ることじゃない。いくらファンタジーでもコイツだけぶっ飛びすぎている。
「レイ‼後ろ‼」
愛するラプツェルの声で、俺は身を翻した。
「シュウ‼何をやっている‼」
「邪神を倒さなきゃ…。そうしないとまた世界が壊れる…」
そこで四人がおかしいことに気付く。
いや、遠くの方に人間が見える。
こっちに向かっているように見える。
「ラプツェル‼今度こそ、登山だ。王命?神官長令?ここを戦場にすることは出来ない」
だが、突然力が抜ける。
愛する彼女も同じの様で、突然地面に落下した。
そして無情にも——
『トゥルルルルルルルンッ‼』
光の女神は鍵盤を叩く。光のライスシャワーを投げる。
いや、破綻しているのはこの世界か。
「この世界は魔王討伐後、アルテナスに会える…。この世界は異世界の魂によって魔王を討伐させるように出来ている。お前、まさか…」
可能性があるとすれば、この世界のシステムを操れる存在。
つまりは神…
「ふぅん。気づいた?まぁ、気付くよね。どうだい、イッチ。神になってみた!これが現実になる世界なんだ」
「何が神だ。だったら人々を正しい方向に導け!」
しかも、言い伝えが本当なら。
いや、既にそうなんだから本当。
システムの最上位に君臨する最高の神。
「それはぁぁぁあああ!断るぅぅうううう!俺はこの世界が嫌いなんだよ。その為にコツコツと善行に励んでたんだよ!」
「だったらそのままでいいじゃないか!」
光の女神の加護、と呼ぶべきかはさておき、レベルアップし続ける勇者たちの攻撃。
フォーセリアの力で作った剣。恐らく最硬度の剣を作っていなければやられていた。
「それもこれもこの日の為だ!俺はなぁ、神になる為にここに来たんだよ!」
「実際になったじゃないか!もう良いだろう!」
「違うんだよ!騙されて、チート使われてミジンコに転生させられたんだ!それを幾星霜、幾星霜と耐え忍び、権力を行使するまでに伸し上がったんだぞ!」
「スゲェ奴じゃねぇか!」
「そうだ、凄いだろう。全てはこの日のため!それからも何度も何度も転生して、アルテナスから少しずつ力を貰っていったんだ!」
恐るべき執念。
どうしてソレを良い方向に使わないのか。
「全部、この日のためだ。俺を嵌めた奴が作った全てを壊し、全てを俺色に塗り替えるためだ!」
「狂ってんのか!」
思わず出る一言。
やはり、絶対悪なんてものは狂っていないと出来ないらしい。
「馬鹿だねぇ。破壊と再生だよ?これ、昔の偉い人、皆考えてたよね?」
「レイ!早くこっちへ」
「どこに逃げても同じだよ。ま、俺もついてってやる。俺様の不断の努力を自慢したいしなぁ」
しっかりと自己顕示欲とお持ち。
じゃないと態々、ここまで来ていない。
ビシュマから出航しても、辿り着けないんなら寝ていても勝てるのに。
「あー。面倒くさいなぁ。ほれ。我らが母の力、いや俺様の力で登頂部まで連れてってやんよ。あれ、今髪の話した?」
そして、このうざ絡み。
光の女神アルテナスは厄災の度にやって来る男に、苦労していたのは想像に難くない。
「俺の可愛い子供たちも連れてくか。シュウ!そんなんじゃ五億年経っても追いつけねぇぞ」
寿命を持たない神にとっての五百年は、感覚的に五日くらいかもしれない。
彼女にとっては一週間も経たずに、この男が訪問してくるのだ。
相当追い込まれて、病んでしまっただろう。
「あ、今。アルテナスのこと考えてた?残念だけど、天界はこっちにはないんだよね。俺、そういうの抜かりないから」
「そんなこと考えてないって」
「フォーセリアの火山から地獄、そこから天界に繋がってんだよね。危ないから最初に消すのは…、って。もう見えねぇかぁ」
神殿にチラリと二人の人間が見えた。
ライトニングの5人で訪れた時にいた2つの影。
独特な衣装なので、アレがセリカとシャニムと推測できる。
——俺の目的を思い出せ
アレ…、そういえばなんでだろ。
過去を未来の出来事だと勘違いしたくらいだし、まぁいいか。
「海が永遠とじゃなく、本当にそこで終わっているのか」
「そう…。伝承を信じていた私は…、絶望してしまいました」
「本当はアタシとケンヤが死んだって大陸が見えてたのね」
「世界は円盤状に広がっている。だから、本当ならアクアス山からも見える。見えなくさせていたのは精霊…って、ボクたちは教わったよね」
「そりゃ、事実だからなー。そろそろ思い出せよ。俺と一緒に見たんだけどな。二人とも感動して涙を流してたなぁ。先がないとも知らずに。逆に可哀そうで俺は泣いたね」
前世の記憶が無いとはいえ、張本人の言い放つ。
アイツは引くほど性格が悪いが、やはり考える。
それに見るべき場所は…
「そういえば、トオルはレベルが上がったら記憶が戻ってたな…」
というどうでもよい質問をして、考える。
記憶に就いてはラプツェルが言っていたことだ。
直近の記憶を排除して、遠い昔の前世の記憶を正当化させていた。
そして少なくとも、シュウとユリは千年も前の人間か。
あと、最初に感じたことは正しかった。
異世界の時間とリラヴァティの時間は、別の軸で存在している。
「ほら。俺は優しいからな。神様のご加護。いや、俺様のご加護だ」
『トゥルルルルルルルンッ‼』
自在に音がなる。光の粉が雪山だからか、どうかして見える。
そもそも、こいつの加護だったって考えるだけで、スカが当たりだ。
そう思う俺でも、アルテナスはいる。そんな気はしている。
そして十分に馴染んだ後のこと。
「あ、そっか。私とシュウの時ってこんなに英雄候補っていなかったよね」
「そう…かも。でも、人口密度は今と変わらなかった…」
「当たり前だろ。今回は最後だから多めに転生させてんだよ。因みに言っとくと、あそこに集まったので全員じゃねぇからな。加えて、数えで十七以外も実は記憶持ってたりしてるんだぜ」
「え…、でも。イブファーサはその偽物を探す意味も…」
「本物を…。詐欺師呼ばわりして拷問してたのか…。申し訳なくなってきた」
さて問題はどうするかだな。どうするって、リューズは完全に神だ。
邪神化は五百年単位だろうけど、それ以外は怪しい。内部転生も弄って、自在に操作してた。
その結果、当然のように貴族社会が続いた、と。
——考えろ
一体、何を。邪神の力も止められたら、一方的な負け試合だぞ。
だけど、コイツの性格はなんとなく掴めた。
探るしかないか
「狭い世界。太陽がこのままじゃ、何もしなくても滅びそうなものだな」
「あぁ?最期はド派手って決めてんだよ。やっぱユリのあれじゃね?ほら、邪神。さっきのもう一回やれよ」
「……」
「おい‼…ってめぇ、何のつもりだ」
「ラプツェルはこっち側だ。天界側の言う事を聞く義務はないだろ」
「それでうまく言ったつもりか?それに女‼てめぇもだ。お兄様だぞ‼」
その言葉でそっぽを向く瞬間、
「レイ…」
俺の耳元で、愛する邪神が囁いた。
って。俺、さっきから何を考えてるんだ?
「とにかく‼俺はお前の子供らに言いたいんだよ。俺と戦って邪神がいない世界で細々と生きるか、そいつの言う通りに激しく戦って今日を終わりの日にするか。俺からは戦わないからな」
「おい。神は俺だぞ。勝手に」
「邪神だって言ったろ。あと、俺らの力は戻しとけよ。ユリを追い込むことも出来ないからな」
そしてやっぱり…
「シュウ。惑わされずに考えろ。きっと方法はある」
俺は彼に期待している。
リューズの策略はさて置き、ちゃんと纏め上げていた。
多分、アレが神じゃなかったら、立派な勇者になっていただろう。
◇
放っておかれるくらい、アレは勝利を確信している。
そして実際にどうすれば良いか分かっていない。
あのレベルアップシステムは確かに厄介だ。
勿論、魔法の仕組みを牛耳られたら、何も出来ずに負ける。
「レイ…、その…」
「あ、ゴメン。折角、二人になれたのに」
「え、その。いい…の?」
ウータン地区とオーラン地区からは邪神の気配がしなかった。
俺達を最後の花火にするつもりか、もしくはシュウとユリの逃げ道を奪ったか。
おそらくは後者だ。彼に従って討伐を行った部隊がいたのだろう。
「いいって、何が?」
「さ、さっきの言葉…」
「邪神は従わなくていいだろ」
「そ、そっちじゃない。僕の…こと必要って…。う、ううん。な、なんでもない」
「あぁ、えっと」
「そ、そうだよ…ね。流れとか邪神とか」
「必要…じゃなくて、俺にとって大切で守りたいの言い間違い。変だよな。俺は井戸のカエルの神様で、クリプトは魔術の神様だろ。これは完全に」
完全になんだっけ。
考えていたら、クリプトが立ち上がった。
そして美姫は言う。
その言葉が、俺をカエル、いや変える。
「レイと会えて良かった。レイの前だと安心できて、禁止されてたのに魔法を使っちゃったくらい。凄く、安心した」
「俺の方が助かったけど。でも、正直これから」
「レイは本物だよ。僕、思うんだ。リューズは恐れてる。召喚組を恐れてる。だって召喚組からだけ死者が出てる」
目を剥いた。
だから俺も立ち上がった。
彼女の瞳を見つめ、何度も頷く。
「行ってくる。やっぱクリプトは凄い。大好きだ」
そして立ち尽くすクリプトをそのままに俺は走り出した。
「最後まで操る為の召喚組って、ほんと俺は抜けている。絶対にそうだよ。そうに決まってる‼」
そこにやって来る。
その行動こそが証明している。
「何、それ。なーんにも分かってないねぇ。俺は世界の全ての頂点なんだぞ。お前みたいな勘違い野郎をただ殺す為に召喚組に居たに決まってるじゃないか」
「丁度いいところに来た。今からお前をはっ倒す‼毎回毎回、神が邪神に勝てると思うなよ‼」
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