第47話 今度こそクライマックスの始まり
初出勤がクライマックス。
俺は未来を変えるため、勇者達に鉄槌を下す。
「嫌です!」
「何を考えている!既に邪神は降臨した!民も納得する!」
「絶対に嫌です。レイ!私はレイと共に戦います!」
玉座の間から、中央宮殿から出たらこんな感じだった。
道理で誰も呼びに来ない筈だ。
「ラプツェル。俺は」
「レイは私の味方だよね!」
「は、はい!」
「ほらっ!」
ラプツェルの邪神イスタルの魔力は強い。
強制的に「はい」と言わされた。
ウーエルは彼女の前では喋っていたのは、こういうことだった。
「王様。問題ないよ。王都の邪神の方倒せば、皆文句言わないから」
「うむ。それは確かに。おい、お前。早く倒されろ」
白と黒の魔法剣士は健在。
ただし、俺の考える未来では不健在。
「誰が倒されるか。折角手にした力なんだぞ。見ろ、この沸き上がる魔力を!」
分かりやすくて簡単なプランだ。
この二人を再起不能にすればよい。
そこに立ちはだかる問題は、残りの四人だ。
「勇気ある若者よ。ここまで来たとは素晴らしい。どうだ?我に従えば世界の半分以上をやろう」
「断る!」
勇者に転職したシュウは戦う気満々だ。
ただ、彼ではない。
その隣にいる賢者ユリの覚悟を知っている。
彼女は躊躇いなく自爆魔法を撃てる人間。
「レイ君を返して!彼のためなら私は」
いや、なんだか今にも自爆しそうだ。
その隣には
「ユリ、アンタねぁ。っていうか、始まったばかりなのに半分とか何言ってんのよ」
「レイいぃぃぃ!お前はどこまでガッカリさせるんだよぉ!」
クールな女騎士と熱い男騎士。
温度差はあれど、この二人はハッピーバッドエンドを迎える予定だ。
個人的に何となくケンヤを応援したくなる。
二組には温度差がある。
とは言え、絶対に殺してしてやるという気迫を感じる。
「ま。人類の敵だからね。前世的に生まれ変わらなきゃ駄目なんでしょ」
「アレがイスタの悪魔…。なんて恐ろしい…」
「我らの姫を返せ」
「子供たちを人質にとってるって話よ」
この辺りの印象操作もやはり行われていた。
全部、コイツが悪いで片付けるグノーシス主義、いや絶対悪主義か。
我らの母は悲しんでいるとかはさておき、
「戦争もアイツのせいらしい」
「皆が飢えてるの!太陽を元に戻してよ!」
「家賃が払えないんだ、責任取れ」
など、俺が知る由もないことが含まれる。
トオルとして生まれ変わった王は、ここで全ての不満を解消させるつもりだ。
放っておくと、ラプツェルと子供たちがこれらの感情に晒される。
「レイ…。本当にゴメンなさい」
「下がっていてていいんだぞ。その方が子供たちも安心する」
「だって、レイは関係」
「スマホもネットもない世界だ。平和になればあっという間に忘れるって」
中世的な世界だから、そうなりそう。
「レイ!邪神に与した者はリンネ様に裁かれ、外道に落ちます!」
ファンタジーだからそれも有りそう。
ただ、それをユリが言ったのなら話が変わってくる。
ユリの中にリンネを見たのだ。
「リンネに会ったことはあるか?」
聞いてみたくはある。
「…お前を倒せば神様に会えます」
英雄たちは神に会っている。
それはユリに教えられた。
「そうか。戦わないといけないんだな」
「うん…。そうなんだよ」
戦う運命。戦う為に召喚されたのかもしれない。
で、あれば
「ふはははははははははははははははははは」
「さっきから随分余裕そうですね」
「ほんと、こっちの気も知らないで!」
こんな状況は笑うしかないだろうに。
「ゲームみたいな世界だな。なぁ、勇者」
「確かにそうだね。君が敵に回る。ある意味、思い描いていたよ」
「成程。これは運命だったと?」
すると勇者も笑った。いつものように肩を竦めて。
「違う違う。敵に回したくなかったって意味だよ」
「つまり褒め言葉か。ならば、失礼のないよう、全力で相手をするか」
「邪神に言うことじゃないけど、なんか慣れてない…?」
「シュウ。これ、時間稼ぎよ。アタシ達にはアルテナス様の加護があるのよ」
シュウは考えながら、ロゼッタは強気で。
バランス良くはある。ただ、今は
「なぁ、ロゼッタ」
「何よ!本当は後悔してんでしょ」
「後悔しないためにも全力だ。だから」
「早く仕掛けてき…」
「場所を変えないか?俺様は優しいからな。今後の心配をしているんだ。王都を壊して構わんのだな?」
そう。この一手は入れておきたい。
既に魔法弾連打でボロボロだけど、下手をしたら次の厄災まで住めなくなる。
もし負けても、これ以上ラプツェルたちが恨まれないように。
「え?それは駄目よ。あ、トオルって王様なんだっけ」
「ふむ。確かにそうだな。邪神の分際で言うではないか」
「何、イスタの邪神として当然の計らいだ」
「良く言う。ならば」
生まれ直したトオルの目が左に、つまり南を見た。
だが、ここで
「トオル。ちょっと待ってくれない…。移動するならルネシス大平原が近いんじゃ」
「いや、あそこは」
「トオルっち。今は勇者様がリーダーだよ」
「それは…、そうだったな。では、北に」
するとザワザワと周囲が騒ぐ。
その様子に気付いた王の瞳がギョロリと動いた。
そこから更に別の人間、俺の知らない人間に白羽の矢が立ったらしい。
「サジッタス卿!そなたの領地に荒れ地があっただろう。そこを貸してはくれぬか」
「私の領地で戦うのですか?」
「アルテナ王国の為だ。保障は約束しよう。ワシは若返ったのだからな。絶対に果たす」
◇
今回も利害一致での移動。
手順として、王宮に残した子供を避難させる。
王国側は有用な土地を守り、被害を最小限に留める。
「漸く始められるな。ただし」
「何だよ。まだ、条件づけか?」
「そうではない。自爆魔法は禁止だ。お前たちの戦いはこれからだ」
「そんなの当たり前でしょ?アンタなんかに使うわけないじゃん」
ロゼッタには言っていない。
ただ、流石にこれは全員が同意した。
そして、お待たせしました。
「では、行くぞ」
「あぁ。本気で」
戦いは──
安心してほしい。
腰を折るわけではない。
その瞬間にやはりアレが起きた。
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
光女神アルテナスが勇者達に力を授ける。
「行くぞ」
「望むところだ」
──始まった。
「ではデ・フォーセリア!!」
やはりボスの最初の攻撃は
「ん?なんだぁ?何も起きねぇぞ。やっぱ大したことないんじゃね?」
「気をつけて、ケンヤくん!これ、補助魔法を無効化する魔法」
これから始まるものだ。
「やっぱり、戦い慣れてるね。皆、相手は最強の邪神と思って戦おう」
「うん。私もそれがいいと思う」
「そう…なの?分かったわ。ラスボスの模擬戦ね」
「続けていくぞ!全てを燃やせ。デス・イブゴート!!」
その瞬間、俺の口、と言いたいところだけど全身から灼熱の炎が放たれる。
あの時、クリプトが容易くやって見せたように、邪神を通じて魔力の流れと仕組み、即ちリデンメイズが何となく理解できた。
「あっつ!でも、これくらいで俺の心は折れないぜ。フォーセリア・大抜刀」
「ぐは…。やるじゃないか、ケンヤ」
「ならば、物体を凍り付かせろ。そこにいるんだろ。サイレント・サーファ!」
霊山サーファの麓は流石に土地の扱いが難しいのか、広大な荒れ地が広がっていた。
だから、凍てついても問題ない。
「アンタばっか、卑怯よ!リバルーズ様!お返ししよ!」
海流が発生して、凍った大地を溶かし、そのまま俺の体を巻き上げる。
「なんの!レイザーム!」
「ロゼッタ!魔法を止めて!これはあの組み合わせ」
「分かってる!」
一瞬で大量の海水がなくなって、そこに数千本の稲妻が落ちた。
神々の大戦争として語り継がれることになりそうな戦いだ。
「ボクたちも行こう。アルテナス様!お力を!」
シュウも動く。
光の如く動き、そのまま光の剣を叩きつける。
「ラ・ルーネリア!」
だが、その直前。漆黒が剣に纏わりついて威力を失った。
「ちょっと!横からは卑怯でしょ!」
「さっきも言ったはずです。私の体はレイと共に!」
「許せません!元・クリプトでいなさい!それか!──ヘスティーヌサークル」
「そんな攻撃!」
ヂヂヂチヂヂ
真っ黒な炎がラプツェルを襲った。
そして、それを受けたのは銀髪の邪神の方だった。
「ぐぬぅぅぅぅぅ」
「レイ!また私を守って…」
「さっきのお返しだ。ラプツェル。戦って分かった。シュウとユリと攻撃は無理せずに受け流せ」
「ちょっと!それってアタシ達が弱いってこと?」
「分かりました。そのように」
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
「ほーら。違うってよ!俺の剣、持ってくれよ!レイザーム…ビッグサンダー」
「成程。アクアス・ビッグウォール」
「のわっ!」
「ケンヤ、長髪に乗って…。だったらアタシが」
「デ・フォーセリア!さらにルーネリア・サークル」
「ちょっと!鬱陶しいわね!」
『トゥルルルルルルルンッ‼』
『トゥルルルルルルルンッ‼』
とんでもない勢いでレベルが上がっていく。
主神も応援しているが、
「二人とも、落ち着いて」
「ロゼッタちゃんも一度下がろ!」
「はぁ?お前たちも」
「いや、強い、弱いの話をしていない…んじゃないかな」
「それ、どういう」
「えっと…。ケンヤくんとロゼッタちゃんには言いにくいんだけど」
主神の応援とは関係ない場所。
つまり、いや。折角だから勇者の口から言ってもらおう。
「魔力もステータスも変わらない。多分知識…かな」
「へ、それって」
「俺達が勉強できてなかったからってこと?確かに二人とも真面目に覚えてたし」
まさかの知識の差だった。
その差がレイとラプツェルへ届くか、届かないか、という致命的な差を生んでいた。
「それだったら」
いや。ちょっと待とう。
ちょっと、落ち着いてと二人は言おうとした。
止まらない。ステータスは同じだから
「さっきから俺達四人しか戦ってないじゃん!」
「そうよ。トオルは王様なんでしょ。知識も豊富になったんだから、前線で戦いなさいよ。前はそうだったじゃない」
でも、当然の不満。
そしてこれは、俺も気付いていたが、敢えて貯めておいたこと。
「ふはははは。王は治世があるからな。体に傷を負いたくないのだろう。そして、そう!新入りは役に立っていないなぁ!あれれれれ?おっかしーなー。リューズは期待の新人じゃなかったぁぁぁあ?」
後半はちょっとふざけたけど、俺が待ち望んだ展開だ。
トオルは何となく読めていたし、リューズは足を引っ張る存在だ。
今しかない!ライトニングを正しく導くにはここしか。
「ワシは…。あれだ。最終兵器。いや、案を練っていたのだ」
うんうん。そうだよな。お前はアクアス大陸には行かないんだ。
で、リューズくん。散々煽ってくれたけど、
「あー、聞きてぇ!ねぇねぇ、どんな気持ち?リューズく」
「ん?俺も戦っていいの?俺、強すぎるけど?」
強がり!これはついにリューズのスレが
「…そうだね。リューズは最後の切り札だ。あ、トオル王もです。勿論!」
あ…れ?今のって…?気を遣った?
王は分かるけど、新入りにまで?
そして戦いは後半戦に突入する。
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