第43話 アルテナスの使徒たち

 心に誓った…筈。

 だが、実際の城内はどうだ?

 彼奴らが来るとすれば、日の出の後という話だ。

 だから寝る魔も惜しんで、俺は城のマップを頭に叩き込んだ。


「思い出せ。俺は何のために来た…」


 でも、あまりに眠い。

 アレだけ勉強したのに、勉強では加護をくれない神。

 そもそも、俺には何もくれない女神。


「守るのはお姫様か。子供たちにお母さんって呼ばれてたし、慕われてるって分かるから引き受けたけど…。でも、なんでこれだけの敷地に人っ子一人いない?人手不足の域を越えてるだろ!お姫様とは会っちゃ駄目って言われたし。クリプト…、俺はどうしたらいい?」


 危ない場所に行くなと言って、家まで借りてくれた友がいる。

 彼は王都攻略に向かうと言って、不帰の決意を告げて旅立った。

 本当にその通りだった、かもしれない。


「そうだ…。ここは難攻不落って思わせるだけでいい。シュウは良いヤツだ。アイツに人は殺させない」


 それは決定事項だ。

 今度こそ、説得をしたい。


 チーム・草原で過ごしていた時、ユリから学んでいたように、知識を蓄えるべきだった。

 俺を貶めたアイツ、リューズはそれをやっていた。

 ソレに関しては


「負けでいい。トオルに振り回され、リューズに馬鹿にされたけど。子供たちがいるのは事実だし、ゾーフと教皇の時は心が動いたんだぜ?」

「レイ。準備は出来たか?少ない人数で済まないが配置した。子供たちは姫の部屋だ」

「因みに王様と王子様は来ないのか?王様にとっては娘、王子にとっては姉か妹。父権制がどうかなんて関係ない。家族であれば守るべきだ。それとも…」

「魔物化を恐れて避難したって考えてるって顔だな。…あ、あぁ。ここまで来たんだ。分かった。正直に話す…」


 王都はほぼ空っぽ、僅かに兵士を残すのみ。

 何なら、最初からここを落とすべきだった。

 いや、お姫様が邪神化していたんなら…


 でも、これでやっと——


「…その通りだ。今は解放されていない森の中にいる」

「な…。オーラン地区とウータン地区…か。あそこは国有地で、毎回手付かずのまま…。隠れるのにはうってつけ…」

「そ、そうだ。良く知ってる…な。王家の血を絶やすわけにはいかない。だから…だ。お前が今居る場所が王の間。その椅子が玉座だ」

「な…。最低…だな」

「何とでも言ってくれていい。俺は姫を守る。それだけだ」

「…あぁ。それはそうだ」 


 姫が邪神化すると決まった。

 そして、姫を守る計画も始まった。

 その中には、王と王子を守る為に避難させるというのも含まれていた。


 確かに誰にも言えない。

 誰かが唆さなければ、シュウはここを置き去りに魔王退治していた。

 邪神化は止まって、全てが元通り。

 そんなある意味、最低な理由で俺は玉座に座っている。


「ここに残ってる奴らも被害者…か」


     ◇


 昔の潜水艦、今もかもしれないけど、ラッパみたいなのに話せば通じるらしい。

 四つの拠点に通じるらしい。

 後はこのラッパに話しかけて、王都を守るだけ。


「で、お姫様の名前はイスタルか」


 頑強な王都イスタ。歴史の偉人の名が付いた。

 名前は一定の年齢に達すると襲名するらしい。

 皆が恐れおののいた王都攻略だ。クリプトも今から死んできます、みたいな顔で出て行った。

 恐ろしい場所と言われていたんだろう。なにせ、レベル20以上とか。


「本当は伽藍洞なのに、もしくはアルテナスの使徒が来れば、その姫が邪神化するとか?」

『そう思われる。詳しくは俺も知らないんだ』


 偉い人は避難しているから。

 魔法とかで連絡も取れない場所。

 解放されていないエリアの中だから。


 なんとなく分かった風の俺が今抱える大問題、それは

 

「四つの拠点が全く機能しない…。それはそうだよ。ここが弱点って大神殿で俺、言ったよね⁉このままじゃ、ラスボス前のだだっ広いエリアにポツンと座る魔王様だからね‼」


 そして、いつだって俺には眠気との戦いがある。


「あれ…、今、何時だ?」

『隊長‼アクアス大神殿の向こう側に居ます‼』

「え?もうそんな…時間。まずい。非常にまずい。考えろ、俺。こういうの何度も…」


 あれ、何度も?

 ここじゃないんだけど、何度も別の場所で…


「うー。クリプトぉ…。なんかない?何か俺にお前の知恵と工夫を…」


 クリプトの力を思い出せ…

 クリプトは俺と同じで、魔法が使えない。


 その後、不思議な感覚に襲われた。


     ♧


ルーネリア「相変わらず、うるさいわね。心配しなくとも妹は滅びたりしない」


リバルーズ「なことは分かってるよ。サーファの奴が不甲斐ねぇのと、てめぇのいい加減な情報網にイラついてんだよ」


ルーネリア「そんなこと言われてもねぇ…。言語化・・・は難しいのよ」


アクアス「お兄様、どうか落ち着いてください。アレらはオーブを手にした。次は私の大陸ですから、そこで…必ず」


レイザーム「うむ?だが、まだルーネリア姉貴の城は」


ルーネリア「はぁ…。あそこ、ね。元々は魔王様を奉っていたんじゃなかったかしら。それに今回は無視される…みたいな話が聞こえるけど」


魔王アクレス「いや…。我らが主は仰っている。あの地の血が必要だ…と」


ルーネリア「ちょっと…。聞いてないんだけど」


     ♧


 申し訳ないが、またコピペだ。

 でも、こっちはこっちで脳内に焼き付いている。

 魔王たちの会話と、勇者の行動は何故か時々頭に流れ込む。

 その中にヒントがある…かもしれない


「って‼分かるか‼ウドとか精霊とか、魔力とか‼…って、あれ?オドじゃないんだ…」


 その時、爆音が鳴り響いた。

 喉で痞えた何かをつい呑み込んでしまう。


「どうした⁉」

『言われた通り大砲を打ちましたが、弾かれました』


 ——神々の回路リデンメイズは仕込んだか?


「そか、リデンメイズは仕込んだか?」

『え…?い、いえ。ただの砲弾でした…。ですが』


 えっと、なんだっけ…


「レイザームの魔法陣にアクアスの攻撃方陣を組み込め」

『そ、そこまで?』

「いいからやれ。お姫様、イスタル様をお守りするんだろ?」

『や、やってみます‼』


 ——望遠鏡スコープという回路


 そういえばそうだった。

 ここをこうして…


「外の様子が見えるんだったっけ」


     ◇


 金色の勇者は輝かしいマントを翻し、音速で襲来する鉄球を弾き返した。


「どうやら、アッチも本気みたいだね」

「抵抗した方がこっちもやりやすいよ」

「ねぇ。シアン王は結局引っ込んだまま?」

「エルメス神官長様のお姿も…」


 巨大な鉛玉は神々の加護を使いこなす彼ら、彼女らには通じない。

 たかが人間が作った単純な兵器は、厄災前戦争までしか意味をなさない。


「やっぱり逃げてるんじゃないっす?予め分かってたって話ですよね?」

「まぁなー。にしても、なんかスカスカじゃね?」

「…良いこととは思うんですけど。変ですよね」

「いや。待ち伏せしている考えるべきだ」

「確かに、トオルの言う通りだね。実際に攻撃は止まない」


 順風満帆のスタート。

 ただ、空気は重かった。

 途中で聞かされた、人間がエリアボスになっているという話は、彼らには流石に重すぎた。


「って、アイツ来てねぇじゃん。アールブ侯爵のなんだっけ?」

「三男のライゼン。流石に覚えなさい。ケンヤも貴族になるかもなんだから」

「彼には外周を固める側を任せた…。ほら、ボクたちは前回逃げちゃったから…」

「うん…」

「それは…。仕方ない…だろ。俺、あの爺ちゃんがイブファーサで一番好きだった」

「へぇ…。そんな人もいたんすね。俺も転生組に入れば良かった。みんなとおな小、おな中的な?」


 白魔法剣士はオッドアイの片目を瞑り、仲間の様子を伺う。


「貴様…。今はやめておけ。言い伝えに寄れば、邪神と共に葬られた魂は、神と共に天に昇る。悪い話ではない」

「へぇぇぇ。だったら今頃、アルテナス様と一緒?ちょっとうらやましいかも…。って、ゴメン。俺、やっぱ空気読めてない…ね」


 ただ、今はあまりにも重い。

 調子モノの彼も流石に肩を竦めるしかなかった。


 そんな中で飛んでくる。


 バリバリという轟音と、体温を奪い去る礫のような雨だ。


「ユリ‼」

「分かってる‼エステリア様…。私たちを守って‼ぐ…」

「それだけじゃ足りない⁉フィーゼオ、つぶてを追い返しなさい‼うぐっ‼」


 トオルは目を剥いた。

 すかさず、彼は両腕を突き出した。


「収まれ‼フォーセリアの加護と共に‼」


 そして遂には静まり返る。


「凄いっすよ。トオルっち‼今のって…」

「あ…。あぁ、容易いことだ。漸く、俺様も覚醒をした…という…ことか?」

「ことか?って何よ。凄いじゃない。見直したわ!」

「マジかよ。フォーセリア様って…、五大神の中でも別格だろ?」

「大丈夫。ケンヤも本気を出せば負けないよ」

「そ、そう…だよな。それに…」

「そーねー。大剣豪・・・ってなんかすごそー」

「ロゼッタ…。馬鹿にしてない?」

「馬鹿にしてないわよ。聖騎士の方が美しい響きってだけ」


 きっと、遠くで何処かの銀髪が目を剥いていることだろう。

 色々あったが忘れてはならない。ここはゲームみたいな世界だ。

 レベル20と大神殿の解放にはパトロンが大騒ぎする以外にも、当然意味があった。

 彼らは今朝、転職を済ませている。


「だから、もっと胸を張ってよ。勇者さまっ!」

「はは…。そうだね。勇者って職業、本当にあったなんて…」

「ね。私も賢者って…畏れ多い…」

「トオルっちは残念無念でござったな」

「く…。終わるとはそういう意味か。神の采配なら致し方ない」


 銀髪は青ざめているに違いない。

 この声だってもしかしたら、あの伝声管を巡って聞こえているかもしれない。


「また来るぞ‼」

「今度はアタシに任せて‼リバルーズ様‼その大いなる力で全ての魔法を潰してください‼」


 赤毛の聖騎士が剣を掲げる。

 やはり彼女も五大神の力を宿す。大海の渦巻きが空中に発生して次々に魔法製の砲撃を駆逐していく。


 聖なる騎士は全ての頂点であるアルテナスの騎士。


 その頑張りに応えないことなんてあろうか。


『トゥルルルルルルルンッ‼』


 光女神は鍵盤を奏でる。

 光の翼で彼女達を祝福する。


「え⁉今のでレベルが上がったの?」


 魔物を倒したから上がる。

 それは普通のゲームだ。

 そしてこの世界は更に上のヌルゲー。


 レベルアップとは即ち…


「アルテナス様に近づける…。シュウ君、行きましょう‼」


 彼らは覚醒した。

 転生した意味にも気付き始める。


「ボクたちは神に近づかなきゃならない。邪悪な魔王を倒して、みんなでアルテナス様を救い出そう!」


 自分たちがどうして存在しているのか。

 転生組は殆ど忘れていた。


 それは勿論、召喚組も…


 さて、それはどうだろうか。


「いいね。俺、神なんだけど、質問ある?ってさいっこうじゃん‼」


 加えて、忘れてはならない。


 この世界はヌルゲーRPG、レベルが上がれば彼らの全てが回復する。


 その折れそうな心さえも


「おっしゃぁ‼俺たちの冒険はここからなんだろ?王都くらいサクっと終わらせようぜ‼」


 だから、アルテナスの使徒たちは意気揚々、真っすぐに王城を目指す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る