第23話 同じ境遇の新たな仲間
井戸の邪神ウーエル戦は、魔物馬車で二時間程度進んだ場所にある、小さな集落が舞台だ。
先も言った通りバス感覚の二時間だから、地図上ではメリッサから結構離れている。
そして、今回の目的は遺品探し。
バスに揺られた二時間の中で、俺の心境に変化があった。
「成程。だから盗賊が二人…」
「勘違いするなよ。俺はお前が来るって知らなかったんだからな」
「分かってるよ」
深く傷ついたのは杖と短剣の二本持ちリヒトではなく、僧侶服を着たトーコの方だった。
その死者を出した戦いがどのようなものだったか。
流石に聞きづらいが、今回の作戦はそこが焦点となる。
「おい、てめぇら。勝手に進むな。勝手にしゃべるな」
なんで?と疑問は尽きないが、馬車でうだうだしているゼオビスを多少見直す展開でもある。
感情を爆発させて、今もリヒトの背後に隠れるトーコは現在進行形で戦力外だ。
そんな彼女の為、リヒトの提案を受け入れたのが今日。
「はい、すみません。えっと…ゼオビスさん。作戦を教えてもらえますか?」
「お、おう。どした?急に」
見た目が年上に見えるのと、見た目で人を判断しちゃいけないのとで、俺は喋り方を変えた。
こういうのはズルい。どっかで経験した気もするけど、なんかズルい。
今回のチームメンバーが極めて妥当と、思い直している俺が居る。
「リヒト…。お前がやれ」
「分かりました。これ…」
青髪の魔法使いもしくは魔法剣士は一枚の紙きれを差し出した。
流石にこれは何処で経験したか、俺は知っている。
「トーコ、俺は今から作戦を伝える。だから」
「ううん。あたしも…。そ、そのライトニングが居るから安全…だし」
本当のヘイトの発生源は金髪シスターの方だった。
居ない方が色々と聞けたのにと思っていたら、リヒトは思いのほか素直に話し始めた。
「村の名前はそのまま。ウーエル村で俺達はパーティを失った」
「失った…?最初は五人一組だから…、三人も…」
俺は目を剥いた。多分、表情も歪んだ。
ただ、ここからが本番だった。
しかも、ただエリア攻略というわけではなく、遺品を探すのがミッション。
もしかすると、もっと難しいことかもしれない。
「いや。死んだのは二人。その一人がトーコの弟、ナオヤだった」
「え…。死んだのは二人?一人は助かった…のか。あ、えっとトーコさんの弟?あれ?」
情報量が多いというか、想像していなかった類のものだったから、首を傾げる。
だって、何度も言うように数えで十七歳。可能性として考えられるのは、双子?でも…
「イッチ、分かるっすよね?俺達は召喚組っすよ」
「あ…。そっち?前世の話。…っていうか、リューズも知ってるってことは、その生き残りがお前」
「いやいやいや。イッチが知らなすぎるだけっすよ。転生組って基本的に最初から集まってるんすから」
「あぁ、そっか。っていうか、イッチってなんだよ。匿名掲示板かよ、ここは」
転生組は基本的に昔から知り合い、であれば召喚組は召喚組で集まる。
考えれば分かることだが、この厨二病兼匿名掲示板の、多分まとめサイト勢も役に立つことがあるらしい。
「ふふ…。あ、なんでもない…」
「おやぁ?トーコっちにもこのネタ伝わるんすね。さては…」
「違うから!タイムラインで偶々目に入っただけだし」
「ちょ、トーコ。ま、いいか。俺もなんか…、ゴメン。最初感じ悪かったよな」
「いや、俺こそゴメン。トーコさんの弟なら、もっと配慮するべきだった」
召喚された経緯はさて置き、トーコとナオヤが姉弟でも問題ない。
前世で姉弟で、こっちに来たら新たな肉体を授かるから、同い年になる。
そして、親の仇のように、実際に弟の仇だから同列だろうけど、そんな目を向けられた理由は単純だった。
「あたしも…ゴメン。本当は転生組なんだろうって…思ってた」
「俺のことが転生組に見えた。実際に転生組と行動をしていたし…。見た目でも名前でも区別がつかないし。…で、リューズはそれを狙って」
「そそ。ねらーだけに狙って。っていうのは半分冗談で、どうやら転生組と召喚組は前世の記憶の濃さで見分けられるっす」
「転生組はこっちで赤子として生まれる。前世の記憶があいまいになってもおかしくない…。実際、転生組って過去を話すときはイブファーサ絡みが多いな」
雪解けの理由が「イッチ」だったことは、些か風情に欠ける、かもしれない。
俺がイッチで反応しなかったら、未だに勘違いされたまま。
そして、このリューズのファインプレイで、険悪と思われた四人が纏まり始める。
案外、ここで過ごしやすいかも、なんて本当のリーダーに目をやると、ソイツはつまらなさそうに目を逸らした。
「ウーエル村は大神殿とメリッサを繋ぐ道の途中にある。逆に言えば、大神殿攻略の拠点になるだろ?」
「ま、アクアス大神殿目指す一つのルートっすね。俺のとこは王都用の拠点を目指してたっすけど」
「皆、色々動いてたんだな。…って、当たり前か。この…」
「本能がそうさせるからな。んで、これを見てくれ」
前世の記憶はあっても、何の為かは覚えていない。
ただ、漠然とクリアしなければならないと考える。
それは皆同じらしい。やはり召喚組は召喚組と分かりあえる。
「これが村…?なんか大きくない?」
「あぁ。多分、これが最大の原因だった。実際に目で見ると分かると思う。…俺はその時、ナオヤが死んだことも知らなかったんだ」
「…リヒトのせいじゃない。僧侶としてのあたしのレベルが足りなかった」
予習が出来る転生組とは違う。
召喚された時には、世界の全てが邪に染まっている。
転生組が協力してくれないんだから、彼らの戸惑いが容易く想像できる。
「それにしても随分縦長、いや横に長い。トーコ…さん」
「トーコ…でいい」
「分かった。トーコはナオヤと一緒に戦っていたんだよな」
「その…、あたしも実は逸れてて…」
だけど、全く想像出来なかった。
これはやっぱり、と提案しようと思った時。
見直し始めたヤツが
「だぁぁあああ。いつまで立ち止まっでんだよぉぉ!てめぇらにゃ、太陽の位置が見えねぇのか!」
乱暴に並木を思い切り蹴った。
すると容易く木が折れる。やはり、ただの人間の力ではない。
「マップ確認してるんだけど?」
「だーかーらー!仕事は夕方までだろうがっ!」
「いや、だって」
「うるせぇ。てめぇはライトニングか?」
「な…」
「イッチ。まぁまぁ、落ち着いて。…馬車がなきゃ帰れないし。そもそも夜は危ないっす」
白髪は銀髪を宥め、小声で囁いた。
基本的に魔物は周辺の動物が元となる。
夜になると、活動的になるのは夜行性動物の性質。
であれば、ゼオビスもしくは上司の意見は表面的に正しい。
「レイ、ゼオビスさんの言う通りにしよう。実際、目で見た方が早い」
「先ずはこっちに」
福利厚生が整っている会社に勤めるため、リヒトとトーコは、ゼオに営業先の注文までしている。
俺は眉を顰め、上司を睨むも彼はニヤケ顔で応える。
やはり何を考えているのか分からない。
「なぁ、ここに出る魔物ってどんな名前なんだ?レベルは」
「レベル?俺のレベルってことか。レイよりずっと下だ。そんなの聞かないでくれ」
「え…、いやそうじゃなくて」
「イッチぃ。仲良くなったら早速マウントっすか?」
そして、今回の仲間との会話の中で、はたと気付く。
転生組と召喚組との間に存在する、巨大な段差に気が付く。
「ゼビオス…さん。ウーエル村の必要レベルを教えてください」
「あ?知らねぇなぁ。つーか、関係ねぇ。てめぇの役目は遺品の発見と回収だろうが」
上司は知らない、そして舌を出して、早く行け煽る。
でも、知らないは絶対に嘘だ。
もしくは教えられないのか。
ってことは、召喚組はとんでもないハンデを背負わされている。
それに…
「なる…ほど。みんな、ここからは静かに移動しよう。トーコは指で道を示してくれ」
茶髪の戦士が言ったことは間違いじゃない。
召喚組は基本的に戦いに置いては目立たず、ただ逃げるばかり。
だが、それは仕方のないことだった。
「限定的オープンワールド…か。しかも初見殺しつき…」
◇
そもそも、召喚されて直ぐに伝えられるのは『王都の奪還』の道しかない。
そして必要レベルはなんと20。
恐らく、アクアス大神殿の必要レベルも似たようなものだろう。
「ゴメン…なさい。あたしの勘違いだったかも」
女はファッション感覚に被ったシスター帽を抱える。
「悪い…。俺もよく覚えてなくて」
男は短剣と杖の二刀流、彼は肩を落とした。
想像通り、魔法剣士と出たらしい。
「イッチ、この場合どうしたらいいっす?」
もう一人の男は短剣の二刀流。両手には何も持たず、鷹揚に腕を広げている。
実は彼も魔法剣士と出たらしい。
ここかもしれないポイントを三か所も回れば、全員の職業ガチャを知ることが出来る。
それくらい、レイは彼らと仲良くなった。
もしくは、三人がレイを頼りにしていたか。
「…なんでだ?」
カス‼を引いた銀髪も、心の中で頭を抱えている。
「おいおい、しっかりしてくれよぉ?元・ライトニングさんよぉ‼」
何を引いたのかは不明の男は頭の後ろで腕を組んでいる。
やたらと空を見上げているのは、帰りの馬車の時間を気にしてか。
「ここって、もう討伐完了した村じゃないのか?」
「なわけねぇだろ。解放されてりゃ人が帰って来る」
魔物が一匹も出ない。
お陰で捜索はスムーズに進んだが、ウーエル村は南北の道の東西に宿泊施設が建ち並ぶ大都市だった。
その建物は総じて三階以上の構造物で、何棟かは東西を跨り、頭上でアーチを作っている。
メリッサはアルテナス教の発祥地で、はじまりの土地、もしくは聖地と呼ばれる。
厄災が起きなければ、大神殿詣での際には美しく飾られるに違いない。
「五百年に一度、必ず厄災が起きるってのに迷惑な造りっすね」
「それ。あたし達に言う資格ある?」
「ないっすねぇ…」
「二人とも静かにって。レイ、これって盗賊のスキルなんだろ?」
リューズはさて置き、リヒトとトーコは程よい緊張感を保っている。
皆、レイを頼っているから、心のどこかで安全だと思っている。
「盗賊は関係ないよ。トーコの目撃談から察するにハウンディって化け物が潜んでる」
「野犬ってのは本当なのか…。俺達だって一応レベルを上げたんだぞ」
「住宅地だから多分、そう。野良犬が魔物化した姿は熊に近い。で、レベル10くらい必要なんだ」
ただの受け売り。
ライトニングのリーダー、シュウの真似をしているだけ。
召喚組も転生組と同じようにレベルアップする。
ここで自分も、と思った時だった。
「そこまでだ。てめぇら、時間かけ過ぎだ。今日はこの辺で帰るぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます