第20話 眼鏡の彼に誘われて、別のチームへ
あれ?
これってどういうこと…
「お、おはようございます‼」
「…なんで」
「クリプトです‼」
誰かがゲームをクリアしてくれる。
今回はシュウたちがクリアしてくれる。
「昨日…、約束しましたよね⁈」
「やく…そく…」
「ほら。僕、チームに入れそうなんです‼」
「そか…。良かったじゃん」
ここで頑張る必要はない。
異世界系冒険者で溢れている。
三十人?いやいや、もっと膨大な数居る筈だ。
異世界系冒険者の子孫も含まれているんだから、マジで果てしない。
必要なのは、少なくとも俺ではない筈だ。
「良かったじゃん…じゃないですよ。レイさんが必要なんです」
「ちょ…何を言ってる」
「僕はレイさんとのコネクションを買われて、グラスフィール家のチームに…入れるんですから」
「グラス?何の話だよ」
「グラスフィール家は王の血筋なんですよぉ。なんでシュウさん…。あ、そっか。ケンヤがそういうの…」
目下の目標は王都イスタの奪還。
だが必要レベルは20で、取り戻せるとしたらライトニングしかいない。
でも、ケンヤが極端に貴族を嫌っているから、シュウはイスタを無視して大陸を渡る。
確かにケンヤは現地人を目の敵にしている。
それにライトニングの全員が、サボり癖のある冒険者たちを見下している。
ありそうなこと。
ありそうじゃなくて、なんで俺が…
「…知ってる…か」
「知ってる…?知ったことかって…駄目ですよ。僕たちはフィーゼオの皆の蓄えで暮らせているんですから。冒険者の意志を示さないと、没収されちゃいますよ?」
「いや、そっちじゃなくて。って、そうなん?」
「そうですよ。失チーム保険の審査は厳しいんです!特に貴族に目をつけられたら…」
「俺はチームを抜けたんだぞ…」
だのに、見える。
「そうです。魔物を倒さないと駄目です。でも、それだと僕は。えっと、少なくともチームに所属しないと」
「なんで未来が」
「だから、そうです!将来の為にも…。へ?レイさんって未来が見えるんですか?」
いや、そうじゃない。
「はぁ、俺の未来は見えないよ。でもシュウたちの」
「で、ですよね。わ、分かります!シュウ君、優秀たし、真面目だしで、未来は決まったようなものです…」
とは言え、それはそう。
異世界人を呼び出して、彼らが魔王を倒す。
ゲームみたいにレベルが上がる世界だから、勝ったようなものだ。
「……」
「と、とにかく。これはレイさんの未来の為でもあるんですから」
俺自身、シュウに任せたら問題ないって思ってる。
それで俺の脳内で勝手に想像しただけ…?
シュウは、サーファの攻略をしたらオーブを貰える、そうしたら次の大陸に渡れるって言った。
王都イスタには寄らないって言っているようなものだけど…
「とにかく、伯爵様の気が変わらないうちに!」
「わ、ちょっ…」
シュウたちが貴族を嫌っていることは周知されているかもしれない。
そして王都が解放されず、民は住む場所を失っている。
そもそも、魔王討伐なんて漠然としすぎているし、こっちの人々にも目の前の目標と達成感は必要だ。
それで他の異世界人に依頼しているのだろう。
なんてことは、俺には関係ない。
だけど、俺はクリプトについていく。
っていうか、思っていた通り。
「なぁ、クリプトは何レベル?」
「へ…。え、えっと…、言うの恥ずかしいですけど…、3レベルです」
レベルがサクサク上がるのは、ライトニングだけじゃない。
だから、落ちこぼれで有名なクリプトの手を振り払えない。
俺はやっぱり現地人なんだろうか。
——なんて、もしも転生組だったなら思っただろう。
召喚されたからこそ、そうではないとハッキリと言えるんだ。
「分かったよ。一緒にいってやるから、そんなに引っ張るな。失業保険の件はちゃんと理解した」
「本当ですか?」
「本当だって。だから、その代わり教えて欲しい」
俺は間違いなくゲームに参加している。
多分、俺自身の為に——
「教える?僕が教えて欲しいくらいです」
「…って、そこじゃなくてさ。この世界のしきたりとか、マナーとか色々…」
「え?そっちですか…。そういうのはユリさんから教わっていると思ってました」
「いやぁ、俺って召喚組だからさ…。その途中だったというか、それに政治関係は」
「そっか。ケンヤに気を使ったんですね。分かりました。戦い方以外は教えられると思います。その代わり…」
「クリプトと一緒に行くよ。そのチーム…」
リラヴァティで生きる為にも世界を知る必要がある。
勇者パーティではない俺のやるべきことが見つかるまで。
「チーム・草原です」
「そ…。そのヒトに失礼があっちゃいけないだろ?あと、起きてから何も食べてない。腹が減ってるんだ。先にどこかで食べていこうぜ」
◇
チーム・草原はライトニングが嫌う、異世界人の子孫が中心になったグループだった。
パーティではなく、チームでもなく、グループと呼ぶべき、大所帯の冒険者の集まりだった。
オーナーは、ベンジャミン・グラスフィール伯爵で年齢不詳の男。
クリプトの目には四十代の男に見えたらしいが、彼もあまり詳しくは知らないという。
ただ、十七歳チームが原則だから、実質的なリーダーはタチ・バサミーという男が務めているらしい。
1チーム、5人から6人というのが、ユリ曰く習慣らしい。
だが、タチという男のチームは20人。
形式上、4チームが連携していることになっているらしい。
「ありっちゃありか…。広い大陸らしいから、そっちの方が効率的だし。その全員が英雄の子孫組か…」
「いえ。仕切っているのは子孫組ですが、魔物と戦っているのは召喚組と、…その僕みたいな転生組です」
「はい?だって、召喚組と転生組は全部で三十人しかいないだろ?ライトニングを抜けば残りは二十五人だから、殆どじゃん」
「え…、えっと。正しくは三十一人です。それに四つのチームはタチさんの仲間が仕切っているし、子孫組も何人かいるので、僕とレイさんを入れて十五人…だと思います」
「それにしたって半分もいるじゃん。…なんで?俺の場合は特別かもしれないけど、それにしたって手厚い支援を受けてると思うんだけど」
「はぁ…。本当に何も聞いていないんですね。いいですか?」
食べているのはパンとスクランブルエッグ。
味付けは異世界先人たちのお陰で満足できるものだ。
そして、この悪くない食事も理由の一つ。
個室の宿泊施設も一つ。装備を含む衣類も残りの一つ。
「異世界…って気がしない…な。将来の為にも偉い人の下で働いた方が、就職先に困らないのか。う…、なんか眩暈が」
「特に召喚組は実家がないから大変らしいです…。なんか、すみません」
「なんで、お前が謝る…。でもさ、だったら召喚組も、シュウたちみたいに魔王討伐に行けばよくね?」
「みんな…、そう思ってた筈ですけど…」
「あぁ…何となく読めた。右とか左とか伺ってたら、転生組の一つが独走してしまった。それで召喚組は厄災後の為の行動に切り替えた」
「そんなところだと思います。はぁ、僕は転生組なのに…」
「クリプトは困ったら地元に帰れるんだろ?」
「はい…。でも、出来ればイブファーサには戻りたくなくて」
眼鏡男子は、あからさまに落ち込んだ。
またその言葉、学校のようなものと聞いているけれど、やっぱりクリプトも話したくなさそうだった。
「ま…、過去の話は。で、俺はボスの面接ってやつを受ける必要があるんだろ?」
「はい。もう準備はいいですか?」
「心の準備はまだだけど、先ずはアジトの様子を遠くから」
コンコン‼
「はい?」
「クリプトです。失礼します‼」
「アジトって、もしかしてメリッサホテル…なの?」
この近くで一番立地が良くて、個室も充実している宿泊施設。
そして相手は巨大なチームのボスで、貴族と繋がりを持っている。
「し、失礼します。クリプト君の紹介で…」
アジトがこのホテルっていうのは、必然だったかもしれない。
なんて考える前に、全俺が警鐘を鳴らした。
栗毛眼鏡青年の背中側で軽い会釈をする前に、俺の鳥肌が命じるままに床を蹴って後ろに飛び退った。
その直後、二人の間にあった空気が、一瞬だけ途切れた。
俺の髪の毛の数ミリが、薄暗いから銀色というより濃い灰色の銀糸が時間差で床に着地をする。
同じホテルだが、よく見ると扉の作りが全然違う。
それに廊下から分かる部屋の広さ。
俺の部屋はドアを開けるとベッドが見えるビジネスホテルのシングルルーム。
こっちはドアの向こうにテーブルやソファが見える。
多分、高級ホテルのスイートルーム。
部屋の奥のソファに男が、その三秒後に低い声で笑った。
「へぇ…、やるねぇ。流石は元・ライトニングだ。と…、その前に俺の勝ちのようだな、ゼビオス」
スーツを乱暴に着ている黒色のオールバックの男。
見た目は二十歳から三十歳。両足をローテーブルに投げ出しているから、彼ではない。
「ちっ…。俺の負けかよ。っていうか元々、タチが勝手に始めた賭けだろ?」
オールバックの男がタチと言うらしい。
ってことは、こっちの声の主が突然斬りかかった。
クリプトは可哀そうに、驚いて尻餅をついている。
その眼鏡からの視線が注がれている。
彼の目に映るのは絨毯には日本刀に似た刃の切り傷で、彼の眼鏡に写るのは長い髪の男。
スゥ、カチャ…
金属の擦過音と何かに納まった音の後、顔を覗かせたのは濃紺の髪の男。
片方は短く刈られて、もう片方はだらりと垂れ、見えている耳には痛そうなピアスが何本も刺さった、パンクな男が犯人か
もしくは
「ゼビも乗り気だっただろ。つーか、オレも避けるに賭けてんだから、ちゃんと金払えよ?」
「はぁ?そん時の会話にお前はいなかったろ、イルマ」
一人称が「オレ」の赤髪の女かもしれない。
だって、殺気は複数存在していた。
だから、左に見える大男の可能性だってある。
「元・ライトニングの盗賊。盗賊はレベルアップが早い。おっとその前に。…ようこそ、チーム・草原へ」
ガタイは良いが、この中で最も清潔感のある男だ。
そして恐らく、最もレベルが高い。…っていうか、強そう。
「えと、俺は」
「レイ…ですよね。勿論、存じております。雷鳴は飛ぶ鳥を落として回っている。ここにも噂は届いておりますよ」
部屋の気配から察するに、おそらくこれで全員。
グラスフィール家のチームは、四組で構成されている。
もしかすると、それぞれがリーダーかもしれない。
いや、タチ・バサミーは総大将というポジションかもしれない。
ここにはいないもう一人が居てもおかしくない。
「いやぁ…。俺はそこを辞めちゃったんですけど」
「構いませんよ。では、早速ですが、私のチームに」
「あ…、そういうことなら」
「ちょっと待て、フォグ‼勝手に話を進めるんじゃねぇよ」
ネクタイまで締めた灰色髪の大男フォグ。
彼が手を差し出したところで、ソファの男が声を張り上げた。
あと一人いるかはさておき、これがチーム・草原。チーム・グラスフィールのリーダー格に違いない。
それに…
テーブルに詰み上がってるのは金貨?
っていうか、こいつら本当に十七歳か⁈
ケンヤたちが嫌っている理由も分かる。
なんていうか、絶対に良くないチームに見える。
「バルーツ砦までは攻略してんだから、10から11レベルだろう。クリプト、よくやった」
「あ、ありがとうございます‼」
クリプトは嬉しそう。
外見で判断してはいけないのかもしれない。
だけど、どっからどう見ても、こいつらってチーム・ライトニングの対局の存在…だよな
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