第9話 リーダーは誰?
魔法剣士トオル。
レイは、彼に脱退の手伝いをしてもらおうと行動を起こした。
ただ彼は、口下手なだけでなくて、プライドの高い厨二病青年だった。
そして、計画は大失敗に終わり、協力しろという命令まで受けてしまった。
なんとかしないといけない。
こんな状況だと寝るに寝れない、なんてのはなかった。
レイの考察だが、この世界にはHPとMPとは別に肉体的疲労度と精神的疲労度が存在している。
そのレベルアップでは、なん肉体的疲労度と精神的疲労度も回復してしまう。
両方の回復が出来なかったレイは、あの後爆睡してしまった。
だから、目を開けると赤い毛と茶色い毛が目の前にあった。
「シュウ。起きたみたいよ」
「ってか、どんだけ熟睡してんだよ。叫んでも、揺らしても起きねぇし!」
「もう良いだろ。レイ、さっさと準備をしろ」
また、昨日と同じ。
なのかは微妙。トオルの様子がちょっとだけ違う。
銀髪だって努力をした。早起きして、待ち伏せして、土下座でお出迎えをする、とか。
でも、寝る前の準備をする前に爆睡して、早朝出発の先制攻撃を喰らってしまった。
「三人とも…。レイ、自分のペースでいいからね。レイが頼りになりすぎて忘れそうになるけど、昨日は死にかけてたんだ。深い眠りに就いても仕方ないよ」
「シュウ君。その言い方、ちょっと怖い…」
「う…。他意はないんだけど。さ、女子は一旦退室だよ。レイが着替えるからね」
シュウは今日もしっかり者だ。
しかも、レイの着替えを持って来ていた。
それも…
「シュウ…。これってさ」
「うん。昨日の報奨金で買ってみた。ちょっと趣味と違ったかな…」
上等な品。レベル1に似つかわしくない。
尤も、見た目で
「違う‼…って、そっちの意味の違うじゃなくて、だって」
「レイ君がいなかったら、何かあったかも…だし」
「レベルはさて置き、防御力は高めておくべきでしょ?武器も重さに気をつけたら大丈夫じゃないかな」
「いいから受け取んなさいよ。シュウもユリも昨日は慣れていない社交の場で頑張ってたんだから」
眼を泳がすが、シュウはそっぽを向いたまま。
シュウは怪しい人間の追跡をしていた。
それは確かに必要な事だ。
「俺らのより高かったんだからな。感謝しろよ」
「アンタだけのお金じゃないでしょ」
「お金…って」
「そっか。レイには説明をしていなかったね。邪神から解放されたエリアは安全になる。だから報奨金が出るんだよ。逆に言えば、魔物を倒してもお金が入らない。ここだけはゲームと違うんだ」
つまりクエスト報酬が英雄の卵たちの収入源。
それだって十分にゲームみたいなシステムだけれど、より現実に近い。
お金を出すのは、リラヴァティの住民なんだから、現リーダーの行動だって大切なだった。
「ロゼッタちゃん。私たち、あっちに行こうか」
「そうだよ。相変わらずロゼッタはスケベだな」
「はぁ?そんなわけないじゃない」
ロゼッタは不機嫌そうに、ユリは苦笑いを浮かべて、女二人は退室した。
そして終始、レイの顔は引き攣っていた。
今は…、いっか。いつでも…、切り出せる話だし?
◇
パルー祭壇はメリッサの街から北北西にあった。
因みに首都であるイスタは南西部に位置している。
古代時代、ビシュマとイスタはそれぞれに王国を持っていたらしく、信じる神も違っていたらしい。
今日も隣で、プリエステス・ユリの講義が行われている。
「あのさ、シュウ」
「なんだい?また、変な奴を仲間にするなって念押しかな?」
「それは…。じゃなくて、どうして王都に向かわないんだ?その方が軍資金を貰えそうだな…って思ってさ」
「そうかもしれないね。でも、ボクはレベル上げに拘りたいんだ」
「シュウ君はね。他のパーティとの揉め事を避けたいんだよ。私もその方がいいし…」
イスタに行く途中にも邪神の祭壇はあり、経験値を稼げる。
そして、ビシュマ方面の邪神討伐よりも、需要が高いらしく報奨金も多い。
「効率を考えるんなら、あっちでもいいって。アタシは思うんだけどね」
「でもよぉ。邪魔し合って、邪神どころの騒ぎじゃないって話だったぜ」
「それはまぁ、そうなんだけどねぇ」
昨日、パルーという神を解放したので、森の一部は平和になった。
原住民の皆さまが祭壇の清掃をするらしい。
そこにアウターズが取り掛かったことで、彼らの手は止まり、頭を下げている。
すると、金髪の好青年は声を掛け、自分たちのことは気にしなくて良いと手を振った。
ここで
「全く。足の引っ張り合いなどと、愚かなことだ。それにしても、レイ。お前は他に確認したいことがあったんじゃなかったか?」
突然、トオルが会話に加わった。
「…はい?」
「はい、じゃない。昨日と変わらず顔色が悪い。魔法剣士の俺が見抜けないと思っているのか」
銀髪は顔を引き攣らせるが、黒髪男の頭の中ではそうなっているらしい。
昨晩のトオルの話は「確かに」と思わせるが、それはトオルの事情。
当初の予定だと、レイはここに居ないのだ。
早朝から土下座をして、脱退させてくださいと言おうとか考えていた。
そのタイミングを逃したからここに居る。
「えっと。レイ君、何を確認したいの?良くないこと…だよね」
とは言え、だ。
これはチャンスである。
「あのさ。よく考えてみたんだけど、俺って皆と違って外部の人間」
「成程、そういうことかっ‼」
ただ、掻き消される。
報奨金で買ったのであろうマントを翻して、魔法剣士は叫ぶ。
「…は?いや、だから」
「外部の人間はどうなったんだ、と不安に思っても仕方ないだろう。何せ、レイは身を挺した結果、殺されかけたんだ。シュウ」
「そ、そうじゃなくて、俺は」
「分かっている。あれはシュウのせいではない。ただ、不安は拭えないだろう。一生のトラウマになってもおかしくない」
そしてトオルは畳みかけるが、レイも負けていられない。
半眼で睨みつつも、やはり好機と捉える。
「そう…、なんだ。あの時の恐怖が残ってて。だから」
「安心しろ。今度はあんな真似をさせない」
「俺は」
「シュウ。分かっているのだろう?」
「く…。確かに、アレはボクのミスだ…」
「アンタだって同じでしょ。これが俺の力だぁ、とか言って突っ走ってたじゃない」
レイの言葉はやはり掻き消えて、更には険悪なムードが流れ始める。
まるで、自分のせいで喧嘩が始まったような雰囲気。
咄嗟にパルーの祭壇の清掃係に目を泳がせるが、彼らは几帳面さに火がついたのか、一切目を合わせない。
「俺はシミュレーション通り動いただけ。突っ走ったのはケンヤだ」
「トオルよぉ。アレは仕方ねぇだろ、最初の祭壇攻略なんだからさぁ」
そのまま、邪に染まった森に入っていく。
ここで大事なのはゲームみたいな世界ということだ。
「あの…、俺は」
「それはそうだ。それに過ぎたことは仕方がない。俺達に必要なのは次なんだ」
「駄目だ…。全然話を聞いてくれない。って、二人ともどうした?」
メリッサ付近の魔物が一番弱くて、先に進むほど強くなる。
経験値のシステムから言って、パルーの祭壇クリア後のアウターズは、レベル6くらいにはなっている。
三階から飛び降りても大丈夫なほど強くなっている彼ら。
そんな彼らの為に用意された道なのだ。
「前は守ってもらったから、今度は私が守るね」
「確かに、トオルに前を任せた方がいいかもって思ったんだ。ボクはソーサラーだし後ろにいるよ」
「いやいや。だって、シュウはリーダーだろ?」
本当は、逃げ道を塞がないで?…って、言いたい。
トオルが搔き乱しているとは言え、自分の一言がキッカケとなったんだから、帰ると言い辛い。
そもそも、別のパーティに入ってしまったとさえ感じてしまう。
シュウを中心に世界の救済を目指す、大胆だが真面目なパーティ、と思っていたのだが。
更にここで、衝撃の一言がソーサラーから打ち明けられてしまう。
「ん?ボクはリーダーじゃないよ?」
「は?いや、だって」
「ねぇ、ユリ」
「うーん。最近はシュウ君がリーダーっぽい感じだったけど、特にリーダーって役職を決めていないかも」
銀髪が跳ね、パーティ前方に振り返った。
前を行く三人には聞こえていないのか、それとも当たり前だからか、相変わらずブツブツと文句を言っている。
確かに、五人の口から「シュウがリーダーだ」という言葉は出ていない。
とは言え
「パルーの祭壇の見取り図とか、フィーゼオ大陸での必須レベルとか、色々調べてたのはシュウだろ?」
昨日を仕切っていたのは、間違いなく彼だった。
それに加えて、あの映像がある。
ただ、あれは夢かもしれないし、
それを証明するように、二人ともが首を横に振った。
「アレは皆で調べたんだよ。五人で手分けをして、さ」
「うん。でも、シュウ君が一番覚えるのが早かったから…。頼りきっちゃってるかも」
「それで誤解をされちゃったんだね。ボクはソーサラーって言ってるのに。…実はさ、昨日も同じようにボクだけが持ちあげられちゃったんだよ。だから多分…」
シュウは笑顔のまま、肩を竦めた。
昨晩、トオルが出て行ったのはそのせいかもしれない。
腹いせにあんなことを言っているトオルを、シュウは優しく見守るスタイルを取った。
その寛容さはやっぱり大人だし、リーダーに相応しいと思わせるモノだ。
だったら…、
と昨晩のことを思い出そうとした時だった。
「ジャイダだ‼みんな、構えろ‼」
背中、つまり前列からトオルの声が響いた。
それだけではなく正面、つまり後列からもトンデモ情報がやって来る。
「レイ。話は後にしよう」
「ジャイダは毒蛇なの。レイ君は…気を付けた方がいいかも」
ステージ1を超えたから、次は毒モンスター。
定番と言えば定番。だが、生身のレイにとって知りたくもない情報だ。
その中、リーダー気取りの黒髪は更に叫んだ。
「レイ‼今回はお前も戦え。光女神に認められれば加護を得られるぞ」
「え…。俺も?」
「待って。レイ君には無理よ」
そこにユリが立ちはだかる。
レイにはまだ早いと言ったばかりだ。
彼女には彼女の正義がある…らしいが、
「ユリは優しいな。だが、シュウよ。お前も同じことを言うつもりか?」
「う…。ボクは…」
「昨日はパーティから外した。今日も同じくするのか?光女神の加護を渡さないように」
シュウは息を呑む。
レイの逡巡する姿は、アウターズとして正しくない。
「そんなことは…ないよ。レイにもレベル上げが必要で」
「シュウ君‼」
フィーゼオ大陸で、パーティ全員をレベル20にする。
攻略したエリアには魔物は湧かない。
ここで戦わなければ、レベル1は今後も戦うことが出来ない。
「レイ、戦おう。ユリ、大丈夫さ。レベルがあと二つ上がったら、ユリは解毒魔法を覚えるんだよ」
金糸から透明な液体が零れる。
それでもシュウは、精一杯の笑顔を銀髪に向けた。
「…うん、そうだよね。私は必ずレベルを二つ上げる…。だから安心して」
彼女も覚悟を決めて、彼を前線に送り出す。
…って‼違う違う‼なんで俺が噛まれること前提?
ちゃんと俺の生きる道はあるよ?
俺がパーティを外れたら良いだけ、じゃん⁉
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