第5話

「で? なぜ来た、リセ先生」


 六日後。リセはソウハの家に訪れていた。


「いろいろと用があってね。まずこれ」


「これは?」


「大食い大会被害者が排出した雪よ。はい、これで返却完了っと」


「ウ◯コだよな?」


「ちゃんとしっかり浄化したから大丈夫よ」


「でもウ◯コだよな?」


 リセが指の端でちんまり摘む麻袋を差し出してくる。断固受け取り拒否の姿勢を見せたソウハだったが、普通に床に落とされた。地の利はない。


「で、こっちが本題。あなたの卒業認可が出たわ」


「なんだって!?」


 ガタッ! 思わず立ち上がりリセに詰め寄ろうとするソウハだったが、途中で歩みを止めた。


 足裏から麻袋の感触がしてゾワリと怖気だったためである。


「感謝してよね。大変だったのよ? あの雪の消し方を見つけるの」


「せ、先生……!」


 ソウハの目にはツンツンしながら影で生徒のために頑張るいい先生に見えていることだろう。


 が、リセは雪をただ密閉容器に突っ込み冷やし続けただけである。


 魔力の補填なく、無限に存在し続ける物質をそう簡単に生み出せるはずはない。


 そう踏んではいたリセだったが、最後のピースは変態’ズが埋めたものである。


 もしかして、熱エネルギーを吸収することで自らを維持する物質なのでは? 冷え冷えしているのはただその副作用なのでは?


 そう推察し、周囲から一切の熱エネルギーがなくなるまで密閉容器に雪を閉じ込め続けた。


 結果、自己を維持できず雪は消えた。


 ついでに開発できた『冷雪庫』や常温で即気化する『超冷水』などは文明の発展にも多大な貢献を果たしてくれることだろう。


「これで……これで俺は卒業出来るのだな!?」


「ええ。……けどその前に、貴方が大食い大会で優勝者に贈る予定だった商品なのだけど」


 ソウハの額に冷や汗が浮かんだ。叱られると思ったのである。


 しかし、リセは頬を染めながら言った。


「その、卒業するともう会えなくなるわけだし、貴方もついてきてくれないかしら? 感電させてしまったお詫びも兼ねて……どう?」


「よし行こう」


 即応。あまりにも早い即応だった。


 やれやれこの女教師は初デートが恥ずかしいのだなだとか、本当は俺とデートしたかったのだななどと、都合のいい妄想がソウハの脳裏を駆ける。


 こうしてソウハは卒業前に、リセの罠にかかり『特別常識教育補習デート』を体験することとなるのだが。


 それはまた、別の話。

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俺の雪だけ溶けないんだが? 舟渡あさひ @funado_sunshine

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