第9幕 シカバネ

 あれから僕は無気力に高校へ通い続けたよ。美玖は隣の私立へ転校になってたな。その状況で事件が起きたんだ。


 美玖のお袋さんと僕の父さんが、自宅で死んでいてね。学校から帰宅した僕が見つけたよ。現場状況から、警察は心中で捜査方針を立ててたな。


 そもそも父さんが家にいる時間じゃなかったんだ。居たのはお袋さんだけでさ。仕事から早く戻った理由は、僕や母さんには連絡もなかったし。


 ハッキリしてるのは、父さんとお袋さんに肉体関係があったことさ。発見した時、二人の衣服はところどころ露出してたよ。母さんも住んでるのに、そんな不埒な思いを持つなんて信じられなかったな。


 不倫が何時からとか、どちらから持ち掛けて受け入れたとか、疑問は尽きなかったよ。ただ母さんの気持ちだけが心配になってね。落ちこみが酷くて、母さんはパートに出れなくなったんだ。おかげで高校生の僕が色々と決めなきゃならなくて、辛かったな。


 そんな時母さんの親族から、田舎に来ないかって話がね。父さん方の祖父母は近くに住んでたけど、父さんの非を認められなくて、母さんを悪く言いだしてさ。顔を合わせるのも辛くて……田舎行きを決めたよ。


 引っ越し先の高校に慌しく転入手続きを取り――何とか試験を突破して編入できたんだ。せっかく上位の高校にいたのだから、将来を考えてレベルは落とすべきでない――親族の金銭補助がありがたかったな。伏せる母さんを何とか連れて、引っ越したんだ。



 転校先では大人しくしてたさ。興味を持たれて色々聞かれたけど、美玖のことは口にしなかったよ。代わりに父さんを悪者にしてね。納得出来てないだけに、臨場感の凄い語りだったそうだよ。同情込みだけど、おかげで仲よくしてもらったね。



 こうして一年生が終わっての春休み、一本の電話が掛ってきたんだ。番号非通知だから、出るのを迷ったよ。ただ……何故だか無視が出来なくてさ。


『ヨシか?』


 ハルと思える声に美玖の裏切りを知った時の記憶が甦り、怒りが込み上げ――

 

『一度だけ言う』


――有無を言わさない低い声音に言葉が詰まったよ。


『今すぐ親父さんの町工場へ行け』


 ガチャリと通話が切れた。でも一方的な言葉を頭は理解しなかったんだ。けれど魂は……駆け出せと言ったんだ!!


 それで身体が財布の中を確かめ、駅へと走り出したのさ。特急列車に飛び乗り――乗り継いだタクシーに工場跡地へ飛ばしてもらったよ。そして廃墟の中で見つけたのは――



 透明の衣装ケースに押し込まれた生きる屍美玖だった。

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