第7話 見聞
『魔は万物に宿りて
法を敷き志すところを知る』
魔法について知りたい?
はいはいこちらは雇われの身ですから、秘伝とはいかなくとも基本くらいはお教えしまさあ!
と、ティナが快諾してくれたので魔法についてのミニ講義を受けている。
一冊の本を開くと、いきなり難解な一節に迎えられた。
「そこは要綱欄!実践にはまるで役立たずですな」
ティナが参考になりそうなページを開いてくれる。
「できるだけ簡単に説明しますが、この世のあらゆるものはマナを持っています。それは生きものもそれ以外の自然物も例外はありません。そしてそれぞれの方法論でこのマナをエネルギーに世界を動かすというわけですな。自らの望む方向へ」
ふむふむ。この世界にはマナっていうエネルギー源があると。
「マナを生かす具体的な方法については、流派が様々あり一概には言えません。その本に一例が載っていますので参照を」
僕は本をぺらぺらめくりながら、
「たとえば僕はストレージやスクロールを知ってるけど、これらはマナで動いていてマナがある限り動き続けるってことかな?」
「アイテムがマナで動いているというのは正解です。だからマナを充填してやらないと動かなくなります。それが動き続けるかは作成者の力量や工程によりますな。いつかどこかでぴたりと機能を失います、俗にヘタれると言いますけども」
「ということは、これも……」
僕はスマホをティナに見せる。
「アイテムですな。しかし見たことがない代物だ……大事なもののようですからあたしが充填しておきましょう。特別サービスですぞ、旦那」
ティナが瞑想するように集中を高める。魔力を練っているということか。やがてティナの手元のスマホが光り出したように思えた。
スマホから輝きが消え、僕はそれを受け取ると、充電が完了していた。
1日をかけ、街のいろんな所を周り、ある目的のための準備を終えた。
3人で宿をとり、その一室で僕は一息ついた。隣の室にはクリスとティナが控えている。
ある目的とは、僕の所有する鉱山へ視察に行くことだ。
スマホの資産管理アプリを調べていたが、僕の資産の全貌はわからなかった。あえて情報が制限、統制されているようだった。以前、あの世界で貯金が判明したときはつまびらかに全てを教えてくれたのに。信用していいのだと諭すように。
とにかく、アクセスできた情報は、「資産の変動」が起こった僕が所有しているという鉱山のものだけだった。
魔法石の採掘拠点であるファス鉱山。
魔法石とは、自然の中で特に多くのマナを含む鉱石資源のようで、バカな言い方をすれば「天然のすごい電池」といったところか。
僕に与えられたヒントはこれだけだったので、これを取っかかりにこの世界を知ろうと考えたのだ。
実際に、自分の目でこの世界を確かめること。
夜が明けて、僕たちは首都サッハダルムを発った。
ファス鉱山は徒歩で半日ほどの距離、リィル国の外れにあるらしい。この国全体の地図を見たり情報を整理したところ、リィルは中くらいの、小さくもなければ大きくもない国とのことだ。
歩き始めると、すぐに僕たちが用意した靴のアイテムの効果を実感できた。力を入れずとも足が進み、衝撃を吸収するので疲労感はかなり軽減された。
目に映る風景や人々を観察しながら、半ば観光気分で歩き続け、僕たちはファス鉱山へたどり着いた。
坑道への入り口。近くで働く男をひとり捕まえて、クリスは言った。
「オーナーの視察です」
「オーナー?視察?そんなこと今までなかったぞ」
と男が怪しんだので、クリスは契約スクロールを取り出してイメージを起動する。
それが隣りの僕がこの鉱山の所有者であることを証明してくれた。
「これは失礼をしました。どうしようか……そうだ、すぐ課長を呼んできます」
しばらく待つと、課長であろう男を連れてきてくれた。
課長は契約スクロールを確認してから、
「オーナーの視察、ですか……権利をお持ちの方がそう言われるのであれば……」課長はここで嫌そうな顔を断ち切って言う。「ご案内します」
僕たち3人は課長を先頭に坑道へと入っていく。
「ヘルメットをどうぞ」
と渡されたそれを皆でかぶり、順番に見学していく。
「まずこちらが第1採掘場です」
魔法石の採掘現場には様々な者がいた。たくさんの採掘者には、真面目にひたすら作業する者、手を抜く者、サボって怒られる者などがおり、それを少数で監督している。
それから、鉱山の全体を回っていくうちに魔法石のことを自分で確かめ知識としていった。
魔法石の中にも品質があり、より多くのマナを内包し、かつ小さく軽いものが良質とされる。自然の中のマナの含有量は不平等だということだ。
作業の形態は、現代日本と比べてとても近代的とはいえなかったが、魔法を使いうまく創意工夫をしているようだった。
つまり、採掘者とアイテムでより小さなマナでより大きなマナを含む石を採るということ。省エネならぬ省マナといったところか。
最終的にはマナなど使わず単純なマンパワーでごり押ししている箇所も多々見受けられた。
全体を見終わって帰ってくると、最初に見た第1採掘場の様子が目に入り、真面目にひたすら作業していた者が今も額に汗をかき採掘していた。僕は素直に感心する。
そこへ上司であろう男が怒りをあらわに声をかける。
「おいクラム!第2の運搬作業を放ったらかしにしただろ!」
「でも班長、事前スケジュールにはなかったので今日変更されたことでしょう?」
「言い訳すんな!」
何かが思い出されて僕の心が騒ぐような情景だった。過去の僕と違い言い訳できるだけ彼には勇気がある。よけい怒られるんだけど。
僕は片手をあげて自分の存在を2人に示す。
「視察に来た……オーナー……これはお見苦しいところを」
気づいた班長が挨拶した。クラムと呼ばれた青年も一礼する。
「どうも。この子に違う役職、仕事を与えてやりたいな。オーナー権限とでもいおうか」
「ええ!?こいつにですか!?」
「悪い話じゃないと思う。そうだな……効率化実行役でどうかな。自由な裁量でこの現場を改善してほしい。もちろん、彼の抜けた穴は新しい人員が入れるよう予算を組む」
なぜそんなことをしたのかと聞かれれば、気まぐれとしか答えようがない。
ただ、この世界に共感する対象がほしかったのか。この世界をもっとリアルに感じれるように。
「お断りします」
クラムが言った。数秒、記憶の場面が重なり僕は固まった。
「そんなトップの人が頭ごなしに……僕にもちっぽけなプライドはありますから」
「何言ってんだクラム!お受けしろ!」
「そういうことだ。君には僕の都合で、昇進してもらう。言い訳のきかない環境で努力し、結果を見せてもらう」
なぜだろう、僕も意地になって命令する。
そばの課長に話を通し、それから僕たちは坑道を出た。
少しぶりの陽光、広々した空間に伸びをする。
そして、僕は次の目的を決めた。
「サッハダルムへ戻ろう。城へ乗り込むぞ」
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