第3話 おとうと
古いファンヒーターは、点火は遅いが、点くとリビングをあっという間に暖める。
ようやく落ち着いた私は、孝に電話をかけてみた。
数回のコール音の後、電話が繋がった。
「あぁ、姉さん。…葬儀でれなくて悪かった」
外に居るのだろうか。
寒さで凍えたような声だ。
「終わってしまったものは仕方ないわ。
友也と二人で簡単に済ませておいたわ」
「ごめん。後で線香は、あげにいくからさ」
「うん、分かった。連絡くれて、ありがとうね」
短い電話で電話は切れた。
先ずは、どんな理由なのかは知らないが、孝から連絡がきた。
来なかった理由は、後で会ったときにでも
話してくれるだろう。
明日は、母の住んでいたアパートに行って
片付けをし…なく…ちゃ……
そんなことを考えているうちに、疲れで
まどろんでいった。
次の日。
昨日の天気が嘘のように晴れ渡っていた。
表に出ると、桜の花が蕾み始めている。
寒風に負けない桜の強さや美しさが好きだ。
生の息吹が溢れる、春。
季節は上書きを繰り返し、確実に春へと向かっている。
頭を上げれば、空は鉛色から青紫色のグラデーションへ。
下に視線を落とせば、霜柱が消え、名も知らぬ草達が顔を出す。
その季節の変わり目に、母は亡くなった。
生前は、数度しか訪れた事のない、
母の住んでいたアパートへと向かう。
…まだ、忌引休暇が残っているから、助かるわ。
塔子の働く会社は、閑散期でもあり、
落ち着くまで休んで構わないからと言ってくれた。
遺品の片付け。
一人暮らしだったから、荷物は少ないだろう。
早く終わらせたかった。
どうせ汚れるだろうから、動きやすいTシャツとジーンズだ。
駐車場もないので、バスと地下鉄を乗り継いでいく。
バスに乗ると、旅にでるような、妙に不思議な錯覚にとらわれた。
…駄菓子でもあれば、まるで遠足ね。
塔子の住む街は、地方の政令指定都市から
北に位置するベッドタウンとして動する。
バスも地下鉄も、殆ど利用しない。
母の住む所は、交通網が発達した街だ。
大学病院から徒歩約10分、
バス停から徒歩3分。
利便性は良いが、かなり古いアパートだ。
角部屋、101号室。
遺品の中にあった鍵も簡素である。
暗証番号もなく、簡単に開いた。
主を失った部屋は、それを知らず母の帰りを待っているかのように、整然としていた。
母のダイアリー @Sumiyoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。母のダイアリーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
近況ノート
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます