第2話 貴女にとって私とは

声のした方へ振り返ると、かなり高齢の

ご婦人が立っていた。


…誰だろう。思い出せない。


「塔子ちゃん、ご無沙汰してごめんなさいね。町子おばちゃんだよ。覚えているかしら」


うっすらと霞がかった記憶が蘇る。

町子おばちゃんは、私の母親の姉。

私が母親の所を出てから、おばさんとは

疎遠になっていたのだ。

おばさんは、私の手を両手で包みながら、涙を流した。


「塔子ちゃん、言いたいこともあるでしょ

う。あの人はね、性格に難があったかもしれない。でもね、恨むんじゃないよ」


何度もなんども、手をギュッと握る力は、年寄りのそれではない。

今度、遊びにいらっしゃいねと、おばさんは言い、祭壇の前に向かった。


嗚咽の声が、聴こえた。


…泣いてくれる人が居て、良かったね。

お母さん。


私は、どうしても泣けなかったし、悲しむ

事が出来なかった。



でも、何故だろう。

キリキリと、胸の奥が痛かった。

悲しみの感情ではない。

強いて言うなら、悲しまない自分に対しての

罪悪感の痛みだ。


…泣けなくてごめんね。

だけどね、お母さん。私を愛していたの?

幼少期の思い出が、心のスクリーンに

写し出されていく。


そのどれもが忌まわしい記憶だった。


~~~~


シャワーを浴び終えた私は、部屋に戻るとルームウェアに着替え、

ソファにゆっくり腰をおろした。


テーブルの上にある、携帯電話が不在着信を告げている。弟の孝からだった。




孝は、三人姉弟の末っ子。

2番目は、友也。


それぞれ父親が違うので、異父姉弟となる。私とは、歳が離れているのと、私も

早くに家を出たので、余り思い出がない。


電話の理由は分かっていた。

孝は、今日の葬式に来なかったのである。


手違いがあって揉めるのは面倒なので、

葬儀の合間をみては、メールをしたり

留守番電話も残していた。


しかし、式が終わるまで何の連絡もなかった。


同じ境遇にはあったが、互いの心の澱みを吐き出す事のなかった私達姉弟。


幼少の頃、私が学んだのは、自分をとにかく守ることだった。

母の燗に触れてしまうと、手加減なくはたかれ、倒れ込めば蹴られる。


それは、弟達もそうだった。

母の怒りのタイミングは予測不可能だ。

弟達を庇ってあげられなかった事を

今さらだが、私は悔いていた。


葬式に来なかったのも、責めるつもりは全くない。

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