母のダイアリー
@Sumiyoshi
第1話 鈍色(にびいろ)の記憶
最近の空は、どこか生き急いでいるようだと、塔子は思った。
今日もそうだ。
春だというのに、平気で冬のように大雪を降らす。
おかげで、新調した上品な礼服がびしゃびしゃになってしまった。
つい2,3日前には、初夏を思わせる位の暑さだつたのに。
「ホント、ついてない」
そう言葉にして呟くと、余計やり場のない腹立だしさが募る。
凍えた身体を早く暖めるため、家に戻るなり、急いで礼服を脱ぎ、かごに放り込んだ。
型の古いファンヒーターは、点火するのに時間がかかる。
塔子は裸のまま、誰もいないリビングを通り、バスルームへ向かった。
シャワーの温度を熱くして、凍えた身体に浴びせた。
……あぁ、心地よい。
足の指先が桜色になり、温まっていくと、自分は確かに生きているのだと、改めて思った。
……母は、何を感じ、何を思い、独り亡くなったのだろう。
そう、今日は母の葬式だったのだ。
亡くなった母の葬式は、出来る限り簡素なものにした。
涙は出なかった。喪主である塔子は、無感情のまま、淡々とこなしていった。
余りにも淡白な塔子の態度をみて、おずおずと斎場の担当者が声をかけてきた。
「参列者の方に‹お礼の言葉›を作成してお渡しするのですが、
お母様の事をお書きしますので、お話をお聞かせ頂けますか」
…お母様の事、か…
離婚を3回して、その都度子供を産んだ。
記憶の中の母親は、よく私に暴力をふるったなぁ…
母が掃除機をかけている側を通るだけで、
掃除機のホースの部分が、私めがけ飛んでくる。
集合住宅の廊下の柵にぶら下げて、お尻を箒で叩く。
良い思い出がなかなか出てこなくて、
「何か適当に書いて頂けますか」
そう言うしかなかった。
かしこまりましたと、斎場の担当者がスッと離れていく。
手を合わせにくるであろう人達も、母の生き様を知っているのだから。
美辞麗句は要らないだろう。
今日の雲は、どす黒く雷を含んでいるようだ。
…お母さん、生きていて幸せでしたか。
祭壇の母の写真を眺めていた。
「塔子ちゃん」
後ろから、私を呼ぶ声がした。
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