第1話(その6)
ゴーレムたちが示し合わせたようにピタリと動きを止める。それを見やって、パーティの面々も次なる異変に備え、それぞれに身構えるのだった。
むろん同行して日の浅い勇者が、他の面々の動きを見て歩調をそろえるのも難しかっただろう。パーティの面々はそれぞれに目配せすると、彼らの方から勇者の立ち位置を目印にして、密集隊列を取るのだった。
だがその隊列が仇となった。次の瞬間には彼らの立っている辺りの敷石が広範囲にわたって、がくりと下に沈み込むのだった。
今度は誰が罠の仕掛けを踏み抜いたわけでもない。床が全体的に、ぐらぐらと音を立てて崩れていこうとしていたのだった。
「気をつけろ! 床が抜ける!」
クリストフが叫んで、ボーウェンとケイトリンが慌ててその場から飛び退いた。だが崩落は勇者ハルトのすぐ足元から始まっており、その真横に立っていたアレクシアも回避が間に合わなかった。
次の瞬間、勇者ハルトの身体が床の裂け目に吸い込まれていく。
そしてアレクシアもまた、剣を手にしたまま裂けた床下へとずるりと滑り落ちていく。慌てて手を伸ばしておのが身体を支えようとするが、その拍子に剣を取り落としてしまったのだった。
大事な得物が崩れる敷石と一緒に地面に吸い込まれていくのを、ただ眺めていることしか出来なかった。
「くそっ……!」
罵ったところで剣はその手には戻っては来ない。両足を踏ん張れば、床が崩落した後の土の斜面にどうにかつま先を引っかける事が出来たので、アレクシアはその位置でどうにか踏みとどまった。
だが勇者ハルトはと言えば、そのような足掛かりも探り切れなかったようだった。ずるりと落ちていこうとする彼の半身を、ボーウェンとクリストフが慌てて腕を伸ばし支えようとする。
勇者として名高いサイモン・ハルトではあったが、実際に当人を目の当たりにしてみれば、音に聞こえた英傑とはいえその見た目は筋骨隆々の大男などでは決してなく、その痩せた佇まいはむしろ魔導士のような学徒のようですらあった。彫りの浅い優しげな顔立ちは、凶暴強大な魔物どもを片っ端から葬り去り魔王軍に正面から向かっていった剛腕の主には到底見えなかった。彼が小柄とまでは言わないが、女にしては身丈の大きいアレクシアの方が上背で言えば多少上回るくらいだった。
そんな若者がかろうじて指をかけた石ががらりと崩れ、その身が今にも滑り落ちそうになる。岩の斜面に寄り添った姿勢のまま爪先立ちで踏ん張るアレクシアだったが、どうにか左手を伸ばして、滑落しそうになる勇者の襟首を掴み上げ、剣士にしては細身の彼の身体をぐいと押し上げる。
その拍子に――背負い袋の口を括っていた紐が緩んでいたのか、例の金の腕輪がぽろりと落ちてしまったのだった。
「あっ!」
そちらに意識が向いた瞬間、アレクシアがつま先をひっかけていた小岩ががらりと崩れ、彼女もまた裂け目へとみるみるうちに吸い込まれていったのだった。
「アレクシア!」
クリストフの叫んだ声が、彼女が滑落していく床穴に反響した。
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