第1話(その5)
地上を目指す一行の先に見えて来たのは、第七層の大広間だった。この迷宮に初めて挑むような初心者がまずは目標にするような場所で、決して浅い階層とは言えないにせよ、行きと帰りにほぼ必ず通りがかる場所でもある。それもあって、アレクシアらのような年季の入った探索者であれば、ここまでくればそろそろ地上が近いな、という所感を持つのだった。
となれば、いよいよ今回の探索行も終わりに近づいているという事にもなるだろう。勇者と一緒というばかりでなく、アレクシアにしてみればこのパーティとともに探索を行う最後になるのかも知れなかった。感慨深いような、何かもやもやと晴れない何かを残すような、そんな名状しがたい思いを抱えつつ、アレクシアは何げなしに隣を歩いていたケイトリンを見た。
「そう言えば、ケイトリンはこのあとどうするのだ。探索者を辞めてしまうというわけでもないのだろう。私と一緒に新しい仲間を探すか。……それとも、お前も私には愛想を尽かしたか」
「……クリストフに考えがあるから、ここを出たらちゃんと彼の話を聞いてあげて」
「そうか。お前もあの男の肩を持つのだな」
「そういうわけじゃ……!」
何か反論しようとしたケイトリンだが、彼女が一歩踏み出した足元の石畳が、ふいにがくりと沈み込んだ。
カチリ、と何か嫌な音が鳴り響いた。
「……えっ、嘘!? こんな階層にトラップ?」
ここよりも下層へと向かう際に、誰しもが必ず通りがかる広間だ。そんな人通りの多い地点に、敷石を踏んで作動するような初歩的な罠など、もうすっかり出尽くしているものと思われていた。
だが現実に、ケイトリンが石畳を踏み抜いたのと同時に、まったくの岩だと思われていた側面の壁が扉のようにすっと開いて、そこから見上げるような背丈の土くれ人形たちがぞろぞろと出てくるのが分かった。
「ゴーレム!?」
もう少し下の階層で出くわすものに比べれば幾分その体形は華奢で、さほど頑強には見えなかったが、それでもやはり普通なら第七層程度では出くわす事のない難敵だった。そんなゴーレムたちが、岩の隙間から続々と姿を見せるのだった。
「わわっ……ご、ごめんなさい!」
ケイトリンが謝罪の言葉を吐くが、まさかそのような罠が生き残っているとは誰も思っていなかったから、誰も彼女を責めはしなかった。責めはしなかったが、ゴーレムは矢継ぎ早に姿を現してはあっという間にパーティの面々を取り囲んでしまう。
「用心しろ!」
クリストフがリーダーらしく、仲間たちに声がけをする。アレクシアも先ほどまでの仲間達への腹立ちは脇に置いて、さっと身構えて左手で剣を抜いた。勇者が聖剣をふるえばこのようなゴーレムの群れであっても一撃だったろうが、そのような露払いを勇者ともあろう者に任せるわけにはいかない。
ボーウェンが素早く術式を唱えて雷撃を放つ。直撃したゴーレムが二体、あっという間に土くれへと変わっていく。彼が再度の詠唱をしている合間に、クリストフとアレクシアが息を合わせて残るゴーレムへと斬りかかっていく。
そして勇者ハルトも一同に守られているばかりではなかった。火吹き竜への渾身の一閃ほどではないにせよ、聖剣を振るってゴーレムたちを片っ端からいとも簡単に切り払っていくのだった。
とはいえ、さすがに数が多い。クリストフもその剛腕で果敢にゴーレムたちに打ちかかっていくが、一体に向かっている間に横から別の一体に襲われて、慌てて横に飛び退いた。
その時だった。今度は彼が踏んだ石畳がわずかに沈みこんで、ガチャリとまた嫌な音が響いた。
「……おいおい、どうなってるんだ?」
クリストフは狼狽しつつ、慌ててその敷石から足を放すが、後の祭りだった。
次の瞬間、低い地鳴りのような音が響いて、一行のいる足元の床全体が、ぶるぶると震えるのが分かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます