第1話(その3)

 アレクシアがそのように剣呑な態度で詰め寄れば、気心の知れた仲間同士であっても、男達は気後れして思わず後ずさるのだった。


 女にしては長身、その身丈だけを言えば仲間内で一番体躯の大きいクリストフにも並ぶ。すらりと細身ではあったが鎧甲冑に身を包めばその立ち姿はいかめしく、面差しを見やれば右頬に火傷の跡である大きな痣がありありと見て取れた。目鼻立ちこそは整っていたものの、烈火のごとき勢いで男達をにらみつければ、凡百の者どもをたじろがせるに充分であった。


「いいや……どうか、どうか分かってくれ。俺はお前を連れていくわけにはいかぬのだ」


 しどろもどろになって、どうにかそれだけの言葉を吐いた剣士の脇腹を、白魔道士ケイトリンが苛立たしげに乱暴に小突く。どういう段取りになっていたかは分からないが、三者がそれぞれに目配せを交わす様子をみやれば、アレクシア抜きですっかり結論は出ているという事のようだった。


「……いいだろう。詳しい話は地上に戻ったところでゆっくりと聞かせてもらう事にしよう」


 お互い命があればな、とつい余計な一言を付け加えてしまって、それでその場の空気は余計に悪くなってしまうのだった。

 そのようなやり取りを、勇者ハルトはいささかたじろぎながらも脇で黙って見守っていた。

 身内の醜態を晒してしまった事を恥入りつつ、アレクシアは咳ばらいを一つして勇者に向き直る。


「勇者殿、とんだ茶番に付き合わせてしまって申し訳ない。……貴殿が求める神器もこうやって手に入った。どうやら事情を知らなかったのは私だけのようだ。今後の事については、そこのクリストフとすっかり話がついているのだな?」

「ええと、まあその通りです。一緒に行きたいと申し出がありまして。自分としてはこれ以上誰かを巻き添えにするような事はなるべくならしたくないが、いよいよあの〈断崖〉を越えるとあれば、誰も他に仲間がいないのは確かに心細い。せめて〈断崖〉にたどり着くまで、辺境域を渡る間だけでもと思いまして……。ここ数日の皆さんの戦いぶりをみて、その実力には確かに不足ないだろうと判断させてもらいました。……でも、アレクシアさんは本当にご一緒ではないんですね?」

「クリストフが嫌だというのに、無理について行っても迷惑だろう」

「……そうですか」


 それは残念、といかにも社交辞令じみた言葉を青年が吐いたきり、あとはただ気まずい沈黙のままに、一行はとぼとぼと地上を目指すばかりだった。


 もちろん帰路にあっても魔物どもがまったく現れないわけではないので、まだまだ気を抜くわけにはいかなかったが、火吹き竜を一撃で倒す勇者でなくともいずれも小物ばかり、一行の脅威ではなかった。

 ことに、先頭に立って露払いに努めたのはアレクシアだった。そうでもしていないと、向かっ腹の収めどころが分からなかったのだった。

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