第2話 ラブストーリーは突然に

碧川悠斗、社会人5年目。大手IT企業に勤務。

身長172cm、体重63kg。視力は良好。

趣味はネットと漫画。スポーツは誘われればやる程度。

福岡の公立高校から地元の国立大学、大学院(情報系)へ進学。就職で上京した。

大学時代はコンビニでバイト。ごく普通の学生生活を送った。

仕事は真面目に取り組む。一つのことに打ち込むタイプだ。

ちゃんと準備したプロジェクトは成功する。それなりに自分に自信はある。

ただ、女性に対しては奥手。恋人はいない。


「一体、俺はどうしちまったんだ……?」


自室のベッドの上で、悠斗は天井を見上げていた。

今日の昼間の出来事が、頭の中で何度も再生される。

業務で外出した帰り道。公園内のコンビニに立ち寄った。

そこで、彼女――星奈結愛(ほしな ゆあ)を見かけた。

仕事終わりだったのだろう。同僚らしき人に挨拶し、店を出ようとしていた。

すれ違いざま。

本当に、無意識だった。

体が勝手に動いた。

声が勝手に出た。

気づけば、コンビニの前で告白していた。


「ありえない……」


普段の自分なら、絶対にできない行動だ。

彼女は、控えめに言っても、とても綺麗だった。

悠斗にとっては高嶺の花。声をかけることすら躊躇うレベルだ。

それなのに、告白? 自分でも信じられない。


幸運なことに、星奈さんは悠斗を不審者扱いしなかった。

それどころか、連絡先まで交換してくれた。奇跡だ。

彼女のことを考えると、胸の奥がざわつく。不思議な感覚。

これが、一目惚れというやつか?


「……いや、それだけじゃない気がする」


何か、もっと別の、強い繋がりを感じるような……。

いや、考えすぎか。

とにかく、連絡を取らなければ。

お礼と、改めて自己紹介を。

そう思ってスマホを手に取ったが、指が止まる。


「……何て送ればいいんだ?」


告白から始まる関係なんて、経験がない。

どんなメッセージが正解なんだ? 愛を語る? 世間話? 自己紹介?

悩んでいるうちに、時間は過ぎていく。

夜も更けてきた。まずい、早くしないと失礼だ。


「ホウレンソウは社会人の基本だろ……連絡は早く、正確に……」


ビジネススキルがこんなところで顔を出す。

結局、悠斗は当たり障りのない、しかし少し硬いメッセージを送った。

『本日は突然失礼いたしました。お時間をいただきありがとうございます。遅い時間ですので、改めて明日ご連絡させてください』

送信ボタンを押した後、深い溜息が出た。


―――


その頃、星奈は自室のベッドでスマホを見ていた。

昼間の出来事を思い出していた。

突然の告白。驚いたけれど、嫌な気はしなかった。

碧川悠斗。真面目そうで、少し慌てん坊な人。

悪い人ではなさそう。むしろ、どこか惹かれるものが……。


「本当に、会ったことないのかな……?」


記憶にはない。でも、懐かしいような、大切なような……。

そんな不思議な感覚が、彼に対する警戒心を解いたのかもしれない。

思わず「友達から」なんて言ってしまった。

これから、どうなるんだろう。


ピコン、とスマホが鳴った。悠斗からだ。

メッセージを開いて、思わず吹き出した。


「……業務連絡かっ!」


なんだか、可愛い人かも。

少しだけ、明日が楽しみになった。

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