5秒で告白
@megyo9
第1話 プロローグ
「好きです!」
公園に、唐突な男の声が響いた。
「えっ……?」
声の主と向き合う女性は、目を丸くした。
コンビニの制服姿。名札には「星奈」とある。
「あの……私たち、さっき店で会ったばかり、ですよね?」
星奈は戸惑いを隠せない。
男は黙っている。何かを探るように星奈を見つめている。
「どこかでお会いしたこと、ありましたか?」
重ねて問うが、返事はない。
星奈は少し不安になる。けれど、男の真剣な眼差しからは、悪意は感じられなかった。
むしろ、切実な何かが。
「あ、もしかして!」
星奈が何かを思いついたように声を上げる。
男の肩がわずかに跳ねた。
「小さい頃、私、あなたに助けられた……とか? ある雨の日、足を滑らせて川に……もうダメだと思った時、あなたが力強く……」
「それ、某ジブリ映画のシーンでは?」
男がようやく口を開いた。少しだけ、場の空気が和らぐ。
「あはは、バレました? あなたがハク様かと。……で、本当に前に会ったことありました?」
星奈は悪戯っぽく笑う。
男――碧川悠斗(あおかわ ゆうと)は、少し逡巡してから答えた。
「いえ……たぶん、今日が初めてだと思います」
「じゃあ、どうして……」
「わからないんです。ただ、あなたに伝えなきゃいけない。そう強く思ったんです。まるで何かに突き動かされるように……気づいたら、声が出ていました」
悠斗は自分の言葉に困惑しているようだ。
その正直さが、星奈の警戒心をさらに解いていく。
「えっと……つまり、一目惚れ、ということでしょうか?」
「そう……かもしれません。あっ、すみません!突然こんなこと言われても困りますよね。本当に、俺、どうかしてる……考えるより先に体が……」
悠斗の顔がみるみる赤くなる。慌てて言葉を継ぐが、しどろもどろだ。
つられて、星奈の頬も少しだけ熱を持つ。
「本当にすみません。でも、嘘や冗談じゃなくて。あなたのことが……す、好き……です」
今度は疑問形ではなかった。まっすぐな言葉。
悪い人ではなさそうだ。むしろ、少し不器用で、真面目な人なのかもしれない。
星奈は、心のどこかで引っかかっていた「何か」を感じながら、小さく息を吐いた。
「……突然で、正直どうしたらいいか……。でも……そうですね、まずはお友達から、お願いします」
その言葉を聞いた瞬間、悠斗の顔がぱあっと輝いた。
これまでの人生で感じたことのないような喜び。そして、緊張からの解放。
「ありがとうございます!」
悠斗は深々と頭を下げた。その勢いに、星奈は少し笑ってしまった。
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