第4話 ありふれているもの
医科大と聞かされていたために、てっきり白衣をイメージしていたが、目につくのは私服姿ばかりだった。それと、
「うわ……」
ワットさんが言った通り、だれもかれもが武器を携行している。
今俺が借りている拳銃や、ライフル、ショットガン、マシンガンなどの銃火器だけでなく、中には帯刀していたり、腰から手斧を下げていたりするのも見かけた。その誰もが、まるでそうして当然と言わんばかりに構内を行き交っている。
「すごいですね」
と言ってみたものの、
「そうなんですかね」
彼女はいまいちピンときていないようだった。
「なんだか、おじいさんと喋ってるみたいです」
それから講義棟の横を通り過ぎると、目的の研究棟の入口の前に立つ人影が、こちらに気づくや否や向かってきた。
「生理学研究室のエル・アサギリです」
ワットさんが手を振ると、向こうを歩く彼女は会釈でかえした。大股ですいすいと近づいてくるので、なんだか少し気圧されるように感じる。
「こんにちは、ええと、アサギリさん。ルーカス・ソレンです」
そう言うと、眉一つ動かさずに
「エルで構わない。今日の君の検査を担当する。よろしく」
と、アサギリさん……ではなくエルさんが言った。
照明に照らされると、それはより際立った。真っ白な毛並みに赤い瞳が、強烈に印象を形作る。そして後ろに背負った大斧。ワットさんは微笑んで言った。
「久しぶりですね」
エルさんがおもむろに肩や首を回すと、まるで骨が折れてるんじゃないかと心配になるぐらいの音が響いてきた。
「手のかかる件があって、今日、ようやく外に出られたんだ」
ひとしきり体を動かしてから、翻って俺たちを背中で案内する。三人分の足音が、建物の壁と壁との間で反響していく。
「検査が終わったら、あそこのエビサンドを食べにいこう」
ふと横目でこちらに視線を向けたエルさんが呟いた。「君も来るだろ」と、俺に付け足して。しかしワットさんを見やると渋い表情で、それから言いにくそうにしながら口にした。
「潰れましたよ、あの店」
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